2016.10.12

現場を動かすCRMグローバルプロジェクトの進め方 ~本社の思いを海外販社に押し付けていませんか?~

グローバルにビジネスを展開する企業にとって、グローバルでのWebサイト統一や、CRMシステムのグローバル展開といったテーマは、マーケティング・営業関連の取り組みとして、最近ではごくありふれたものになっています。

マーケティング・営業周りの業務やシステムは、各国市場の顧客との接点となります。つまり、「市場」という、社内の都合だけでコントロールできないものが相手なので、各国それぞれの成熟度・商習慣の違いに対応せざるを得ず、ERP導入の場合によく採用される、必要な機能を同時に一括で展開するビッグバン・アプローチのようなやり方はあまり適しません。

また、その企業の体制やチャネルにもよりますが、本社と各国販社など、プロジェクトの関係者は多岐にわたります。

全体としてのゴールについて各関係者で合意したとしても、それぞれの立場にとってのゴールとなると微妙に違うという状況はよくあります。

このような場合に全体のゴールを声高に訴えているだけでは、プロジェクトは前には進みません。

関係者全員が全体のゴールを共有し、そこに向かうよう意識づけるのと同時に、「差異」をしっかりと認識した上で、各関係者のゴールも達成できるような細かい気配りがプロジェクトをうまく進めるためには重要です。

筆者が本社側から携わったB2B企業でのプロジェクトにおいても、本社と販社、それぞれのゴールに微妙な「差異」がありました。

 

 

そのプロジェクトでは、Webサイトからの問合せに対するレスポンスの遅さ/ 成果の見えづらさといった課題を解決するために、Webフォーム経由の顧客問合せを地域全体で一元管理することになりました。

実際に顧客に対してアプローチするのは販社なので、それら問合せ情報を見込み客情報として、まずはアジアA国販社のCRM/ SFAシステムに随時連携するようにしました。

このプロジェクトのスポンサーである本社としてのゴールは、「Web経由での問合せを増やし、未確定な潜在顧客をより多く見込み顧客として取り込み、より多くの商談・受注獲得に繋げる」というものでしたが、本社、A国販社の責任範囲の違いから、それぞれのゴールや関心事には微妙な違いが見られました。

 

  • 本社:

Web

サイト改善の成果として、問合せの「質」「量」を向上させる。結果としての商談・受注獲得数は見たい

が、各国販社内での問合せの対応フロー自体に対する関心は低い。

  • A国販社:

効率良く問合せに対応することで、商談・受注獲得数を増加させる。

確度の高い見込み客情報は欲しいものの、Webサイトからの問合せの「質」や「量」に対する関心は低い。

 

これらは組織としてのミッションから考えると当然なのですが、ひとつのプロジェクトとして進める以上は両方のニーズを満たさないといけません。

こういった状況の中、まずは本社側の立場として、全体のゴール達成度を測るために、どのような指標を見るべきかを定め、それら指標を見るために必要となるパイプライン全体を管理する基盤整備支援を行いました。

一方、販社側のニーズを満たすために、現地のマーケティング・営業体制に合わせ、Web問合せを商談・受注獲得に繋げるために最も効率よいであろう業務フローを、現地担当者とともに組み立て、その過程で本社側が求める指標を把握できるような仕様にしました。

ユーザーが組織をまたぐと、要件は膨大な量になります。それを片方だけのニーズから優先順位を付けるのではなく、双方の視点で優先順位をつけて、理にかなった形で実現策を考えるということがポイントとなりました。

結果的に、本社/販社、それぞれが納得でき、全体のゴールに向かいつつ、個別のゴールも達成できる仕組みと体制確立の足がかりができました。

 

 

グローバルでのマーケティング・営業関連プロジェクトで、全体のゴールを達成するためには、各国(=各市場)でのゴールの達成が不可欠です。全体のゴールと関係者それぞれのゴールの明確化とそれらを同時に達成するためのきめ細かいアプローチがプロジェクトの成否を分けるといっても過言ではないでしょう。

記事を書いた人

野中 翔