多くの業界のヒントになる!? スポーツ業界におけるデジタルマーケティング

当社がマーケティングオートメーション(以下MA)を使ったデジタルマーケティング支援のお仕事を始めてから、早いもので今年で8年目となります。これまで数々の企業のお手伝いをさせていただき、累計すると、160社、50業種を超えるところまできました。

ご存じのとおり、MAは、B2B企業向けの、接触があったお客様を営業が対応すべき確度の高いお客様に引き上げていく、営業支援的意味合いが強いものとしてスタートしました。

今は、タッチポイントも複合的になり、B2B、B2C関係なく幅広い分野でなくてはならないツールになってきました。

そういった進化の過程のなかで、当社がひとつ興味深く思っている業界が、「スポーツ業界」です。

MAの活躍余地が大きいスポーツ業界

昨年はサッカーのワールドカップでの日本代表の大活躍で盛り上がったり、野球やバスケの世界でも多くの日本人選手の海外での活躍を目にすることも多いと思いますが、すでに多くのスポーツチーム(特に海外)でデジタルマーケティングに積極的に取り組まれています。

我々が目にするのは、試合を見に行く、チームを応援するという観客の立場ですが、これはB2Cのファンマーケティングという分野として非常にデジタルと相性のよい分野です。

また、普段はあまり目にしないところに、スポンサー営業というものがあります。試合を見に行くと多くの企業の広告宣伝を目にすると思いますが、チームをサポートしてくれる企業をどう増やしていって、バリューを出し続けることで繋ぎとめていくか、というB2Bの分野もあります。

この両面がある業界はあまり多くはありません。そしてこの両方でMA活用の用途があるため、非常に活躍余地が大きいといえます。

「ファンマーケティング」にはなくてはならないデジタル活用

日本でも、各種目のプロリーグで、昨年あたりからようやく会場に人を入れられるようになり、いよいよ人々に感動と興奮を与える機会が増えてきたようです。

多くの人に会場に足を運んでもらい、続けて来場してもらう、さらにはそこでお気に入りの選手のグッズを購入する。そういった繋がりの創出から、関係性の強化につなげていき、最終的に収益につなげる。そこで得られた収益をさらに魅力的なチームにしていくことに投資していく・・・ そういうサイクルでMAは重要な役割を果たすといえます。

数千、数万という来場客がいる世界ですが、きちんとタッチポイントでのデータを収集・分析することで、あたかも「このチームは自分のことを理解してくれている」「自分の応援にこたえてくれている」、と感じるくらいのタイムリーなアプローチが可能になります。(その設計はなかなか大変ですが・・・)

これまで比較的単発の施策が行われがちだったが、「この試合の次はこの試合、前の来場者にはこうやって、、しばらく来てくれていない人はどういう理由からだろう?それを解決するにはこうしよう、、」というように点から線にしていく試みは、まさにMAのコンセプトそのものです。

これはB2Cで消費者の感情に訴える製品・サービスを提供している他の業界でも参考になるところは多いのではないでしょうか? 数万、数十万の顧客に、時間と空間両面で、個別アプローチを図るというのは、とても大変そうに思いますが、きちんと組み立てれば実現可能なものです。

少ない人数でもスポンサーの維持開拓を可能にする

さて、もうひとつの側面の、スポンサー営業に目を向けてみましょう。こちらは、B2Bの営業モデルとしては比較的オーソドックスなものだと思います。ただ特徴的なのは、シーズン単位での「継続」が求められることと、本当にメリットを出し続けなければ続かない、という点。リアルサブスクですね。

さらにその「出し続けないといけないメリット」というのが、マーケティングメッセージを目にする来場客数だけでなく、地域貢献・社会貢献や、福利厚生に至るまで、非常に複合的なもので本当に相手に意味ある形にして伝えなければならないのが特徴的なところです。

筆者も直接スポーツチームの方々とお仕事をさせていただいたことがありますが、そのときに、「あ、これは私たちコンサルティング業界と似たところがあるな」と感じた記憶があります。

つまり、お客様企業毎に課題は様々で、それにいかに応えられるかという、顧客理解と課題解決力が求められる事業特性だということです。そして、それを非常に限られた人数でこなしていく、、という我々の業界とは比べものにならない大変さを抱えておられます。

一方で、業界特有のアドバンテージもあります。他業界と比べると、相対的に「コンテンツ」があります。これは他の多くのB2B企業が苦しんでいる「コンテンツがない」という課題をある程度クリアできているという利点です。

それは言い換えると、話すネタをたくさん持った営業がいるのと同じで、「デジタルでお客様の気持ちや課題を把握するチャンスが多い」ということだといえます。

これでお分かりでしょうか? うまくMAを使いさえすれば、直接的なヒアリングをしなくとも、「もしかしたらこういうことに課題があるのでは?」という提案の勘所の発見とか、「今ちょっと熱量が下がってきているのでは?」といった予防のための情報などのあたりをつけることが可能だということです。

営業一人で数百という企業を担当し、営業ひとりひとりの課題を把握するフィルターにもばらつきがあると、回りきれないうえに課題の捉え方もバラバラ、となり、解決策の提案が量・質ともに不十分に陥ってしまうリスクがあります。それをデジタルで、面でカバーし、均質化したやりとりをすることで、かなり改善することができます。

メリットは多大にあるが、過度に期待しないということも大切

以上、スポーツ業界とMAの相性の話をさせていただきましたが、もちろんいいことばかりではないというのは認識しておく必要があります。

前述のスポンサー営業も、もちろんこのデジタル接点で全て可能なわけではなく、あくまで、「営業対象を絞り込む」というくらいでデータを活用し、最後の最後の繊細なところは、インタラクティブなやりとりから優秀な営業が個別に解決していけばいいと思います。

B2Cもそうですが、MAはデジタル接点をいかに気の利いた人間のやりとりに近づけるか?というスタンスが必要です。そこがずれると何のためにやっているの?という話に陥ってしまいます。もちろん設計時点で「人の気持ちが分かる人」が携わらないと、教科書通りで一見いいけれどまったく人間味のないしくみになってしまいます。

MAを人と見立てて“パーソナリティ”を宿した使い方を

実際に各チームの方々と接してみると分かるのですが、チームはそれぞれのパーソナリティが強烈に存在します。そのパーソナリティからずれるコミュニケーションスタイルになることは、積上げてきたものを一瞬で壊してしまうくらいのリスクがあります。

デジタルマーケティングでは、とかく顧客側の「ペルソナ」を描くことに注力してしまいがちですが、「うちのチームのパーソナリティは?」「うちのチームらしいコミュニケーションは?」「それができているのは実際に誰?」といった、自らのことをしっかり理解してブレない活動をすることは、こういったファンがいる世界ではとても重要です。

さて、今回はスポーツ業界について、ざっと概要を述べてみましたが、いかがでしたでしょうか? 他の業界の皆さまにも参考になるところは多いのではないでしょうか?

これからますます、企業のおしつけではない「顧客体験」が求められ、喜びや幸せを追求する社会になっていきます。スポーツ業界はそれを実現できるとても魅力的な存在です。当社もこれから間接的にではありますが、多くの人の感動と興奮を生み出すことに貢献していきたいと考えています。

記事を書いた人

横山 彰吾