デジタルマーケティングを加速する自律的事業横断組織

複数の事業や製品・サービスを運営する企業にとって、それらのシナジー効果を生み出すことは、他社にはない競争優位性となるため、非常に重要なテーマかと思います。
昨今の全社的DX化の潮流のなかで、マーケティング施策についても、事業部門ごとにサイロ化し、縦割りで運営がされている状況に対して、事業横断の組織を立ちあげ、効率化や事業部間でのシナジーを生み出そうとする動きも加速しております。

デジタルマーケティングが一般的になったことで、データに基づいた顧客への最適なアプローチが求められ、全事業部で一体となって顧客をサポートできる体制を構築することが、より重要度を増してきました。

しかしながら、現実は事業横断の取組みを立ち上げても、事業部門は自分たちで施策に取り組んでいるため、定着せずにうまくいかないというのが良くある話です。事業部門をいかにして協力してもらう形で巻き込み、進めていくかが推進する上で重要な要素となってきます。

デジタルマーケティングにおける事業横断組織の狙いと、それらがうまくいかせるための進め方について、考えてみたいと思います。

デジタルマーケティングにおける事業横断組織

デジタル活用やDXに取り組むことが当たり前になってきたことで、複数の事業部門があるような企業でも、ほとんどの事業部門がそれぞれでデジタルマーケティングに関わる何かしらの取組みをしているかと思います。
ただし、事業部門が独自に施策に取り組んでいることで、企業内で統一性が無く、バラバラになっており、資産やリソースの有効活用ができてない現状が多いかと思います。

従来の営業・マーケティング施策では、顧客に一番近い現場の担当者が目の前の顧客に向き合うことで成果を出すことが最適でした。
しかし、デジタルマーケティングの普及で、顧客データベースが充実し、複数のタッチポイントでの情報が集まるようになったことで、顧客が抱える課題に対して、企業全体のリソースを活用したソリューションを提供して解決できる可能性を見いだせるようになってきました。これは大きなビジネス機会であり、単体の事業部のソリューションを越えて、多様化する顧客の課題に対応することで収益を増大させることが可能になってきました。
企業視点で良い製品・サービスを届けるという目線から、ユーザーが抱える課題に対して企業としてどのような価値を提供できるかを考えていくことが重要になってきています。

 

そのため、企業として取り組むデジタルマーケティングも事業部門ごとでなく、事業横串で、企業全体のリソースを活用して、顧客が求めるソリューションを提供できるような体制を構築していくことが求められてきます。

実際に複数事業部門がある企業では、一つの事業部門を目的に来た顧客が、実は他の事業部門の潜在顧客でもあったのに、各事業部の施策がバラバラのため、他事業部の製品・サービスの情報に触れることなく、機会損失になってしまっていることもあるでしょう。
各事業部が提供したいものを案内する企業視点のマーケティングでなく、事業部横断で顧客が必要なものを提案できるようにしていくことが、ユーザー視点でのデジタルマーケティングに繋がっていきます。

ユーザーが求めていることに対して、事業部門だけでなく、企業全体として、何ができるかを考えたときに、デジタルマーケティングの事業部門横串の組織が重要になってくるのです。

自律的に動く組織を構築する必要

事業横断の組織と言葉にするのは簡単ですが、実際に機能させることに多くの企業が苦戦しています。

当社がかかわってきた多くの案件でも、「うちの事業部は特殊だから」という声は数えきれないほど耳にしてきました。それを言われてしまうと、議論の入り口にも立てず、貴重なチャンスを逃すことになってしまいます。

事業部門ではそれぞれの目標を達成するため、各々で施策に取り組んでいます。
事業部同士のシナジーが生まれると言われても、自分たちの成果に直結するのかイメージができず、言われたままで、中々定着しないということが良くある話です。

また、複数の事業部門のリソースを組み合わせた顧客へのソリューションを生み出すためには、現場の顧客が何に困っているかについて、一番詳しい事業部門の協力が不可欠です。
事業部門の担当者が顧客の課題を拾い上げ、他の事業部門であればどのような貢献ができるかを持ち寄ることが、ユーザー視点のマーケティングをする上では、重要になってきます。

 

そのためには、組織として、トップダウンで始まり、受動的に動くものでなく、関係者が自律的に動くような組織であることが求められます。

そうした組織を実現させるための大前提として、事業部門に納得してもらってから進めることが必要となります。
事業部門が自分たちの業務の中で、必要だと思ってもらえなければ、自律的に動く組織の実現はできません。

ただし、自分たちで最適な施策に取り組む事業部門が、いきなりデジタルマーケティングの横串と言われてもメリットを十分に感じてもらうことはかなりハードルが高いです。

そこで、進め方として、小さな結果を出して、それを説得材料に横展開していくことが大事になってきます。
例えば、限られた少ない業務だけを横串組織の中で集中化して、トライアルでスタートさせてみたり、協力的な事業部門からコンパクトに始めてみたりと、まずはスモールスタートで始動をさせます。
そこで成功事例が出てくれば、事業部門としてもメリットをイメージできるようになるでしょう。

小さく始めることは、説得材料となるだけでなく、検証できるといった利点もあります。
事業を横断したプロジェクトとなると、大掛かりなものとなるため、投資の判断としても難しい部分が多いかと思います。
横断的なプロジェクトが本当に必要なものかを検証するという意味でも、スモールスタートが良いと考えられます。

そしてその成功体験に続こうという流れをいかに生み出せるかが次のステップです。そのためには、トライアルもやりっぱなしではなく、きちんと目的の達成度を測ることと、「社内向け」のマーケティング活動がセットで必要となります。

大手家電メーカーや大手製造業の事業部横断デジタルマーケティング組織の事例を見ると、現在10名程度の組織であっても、最初は1,2名の組織から始まっています。
進め方としては、1事業部門から始めたり、組織横串でのツール導入から始めたりとスモールスタートから拡大しています。
そうしたことで、成功事例をトリガーに事業部門を得ていき、結果として自律的な組織の立ち上げをしていました。

今回、コラム執筆にあたり、事例を調べる中で、横断組織を立ち上げるためにどのような進め方がされているかを見てきました。
多くの会社で共通していたのがスモールスタートで徐々に拡大していくということでしたので、その気づきをコラムにさせていただきました。

これからも類似の課題に直面し、乗り越えてきた企業のケーススタディや、当社自身の現場経験から、より企業の皆さんに役に立てる情報の整理をしていきたいと思います。

記事を書いた人

大塚 友晴