デザインはビジネスを拓く力

「デザイン」という言葉から何を思い浮かべますか?
おそらく多くの人が「何かを創り上げる」のような装飾的な要素を想像するかと思います。では、この言葉をビジネスシーンにつなげてみると、また違った意味が浮かび上がってくるのではないでしょうか。近年、「ビジネスデザイン」というキーワードをよく耳にするため、「顧客の課題解決」などの論理的な側面を指す言葉として考える人もいるかと思います。
デザインという装飾的な考えがビジネスを通すとはっきりと輪郭を持った概念になるのは面白いですが、このビジネスデザインをきちんと現場に落とし込めている方はどれくらいいるでしょうか。
今回はビジネスコンサルティングでのデザインの役割について、「装飾的」「論理的」という2つの側面を軸に、実例と共にその本質について解説します。

1.ビジネスとデザイン

まず、ビジネスにおいても装飾的なデザインは重要な要素となります。もちろんデザイナーに限った話ではなく、我々ビジネスパーソンにとっても重要です。
おそらく多くの人は、デザインは「センス」を要するものだ、と誤解して敬遠してしまっているかもしれません。確かにセンスは必要ですが、ビジネスにおける装飾的なデザインにはある程度の法則があるので、それを理解すればセンスのあるデザインを描くことができます。
では、冒頭でも記述した論理的なデザインとはどのようなものか。それは、受け手がどのように感じるかを理解する、いわば「顧客視点を突き詰めて情報を表現」していくことだと思います。その人がどういう人で、どう感じるかを、正しく考え抜くことだとすると、これは“理にかなったこと”を追求する領域です。この視点は、ビジネスコンサルティングにおいては一般的なものなので、理解しやすいのではないでしょうか。
昨今のデザインやアートをビジネスに入れ込んでくる論調は、従来のロジカルシンキングは正しいけれど答えはみな同じになってしまうことがあるので、違う思考回路が必要だ、というものです。
いきなりデザイン、アート、というところからビジネスのことを考えるのと、ロジカルを理解している人がデザインの要素を組み合わせるのは基本的に違うもので、どちらがよいということではありませんが、ビジネスの現場で求められるのは後者の話かと思います。

2.2つのデザインの重要性

ビジネスデザインには2つの要素があることを記述しましたが、実際にはどういうものなのか、ちょうど直近に行った弊社の会社案内の見直しを例に、各要素を具体的に解説いたします。

装飾的なデザインのアプローチの有無

Before

After

「装飾的」というと大層なものを思い浮かべてしまうかもしれませんが、受け手に興味を持ってもらうようなデザインを想像してもらうと良いと思います。
事業沿革のページを例にすると、パターンAは記載ルールを設定していないため、ごちゃごちゃした印象を与え、どのような沿革なのかが伝わりにくくなっています。一方、パターンBは記載ルールにより余白が生まれ、資料全体がすっきりとしており、メインの沿革がより強調されています。これにより、弊社の事業が5年スパンで進化していることを、文字だけでなくデザイン面でも伝えることができています。
このように、装飾的なデザインは単なる情報提供だけでなく、想像力を刺激し、受け手の興味を引く役割を果たします。

論理的なデザインのアプローチの有無

Before

After

論理的なデザインは、顧客視点で情報を整理し、分かりやすく伝えることを目指すと冒頭にも記述しましたが、ただ情報を並べるだけでは受け手は理解するのが難しいです。
サービスラインのページを例にすると、パターンAは6つのサービスについて詳しく記載していますが、なぜそれらのサービスが顧客にとって必要とで、どのような解決策になるのかが明確に伝わりません。一方、パターンBは、サービス内容だけではなくDX推進における世の中の課題や必要性、そして弊社が提供する6つのサービスがどのように結びついているかを明確にまとめています。さらに、図式化することで情報が整理され、顧客にとって理解しやすくなっています。
このように、論理的なデザインは単なる情報の羅列ではなく、顧客のニーズや課題を理解し、資料を効果的に機能させ、ビジネス成果を向上させる手助けをします。
ただここで気を付けたいのは、「ロジカルの追及だけ」にはならないことです。例えば、これまで多くのコンサルティング会社が作ってきた「正しいけれど良く見ないと分からない」という類のドキュメントは、その資料が一人歩きをすることを想定したり、突っ込まれないことを重視したりするものなので、やや役割を異にします。

3.意思決定を加速するデザイン

デザインスキルの向上に特別な学習は必要ありません。我々が日々触れている資料作成のスキルを磨くことで向上していきます。最近ではAIの進化により、自動的にレイアウトを生成できるようになりましたが、最終的なデザインの確認は依然として人間にゆだねられているため、デザインスキルは必要となります。資料作成のスキル向上を目指すためには、構成ルールを設定することが重要です。

<装飾的なデザインのルール>
余白 :レイアウトの設定
フォント :文字サイズとフォントの設定
色彩 :ロゴカラーを活用し、最大3つの色を設定

<論理的なデザインのルール>
メッセージ :シンプルな内容まとめる
ストーリー :読み手の課題を理解し、まとめる
骨組み :ストーリーが伝わりやすい形でまとめる

これらのルールを設けることにより、受け手にとってスムーズに理解できる資料が作成できると考えています。この「スムーズに理解できる」が非常に難しいことであり、どのレイアウトや文章量に要因するかは業種に左右されてしまうため一概には言えず、常に自分たちの顧客視点で資料作成する姿勢が求められますが、作成できるようになると、意思決定のプロセスが加速し、ビジネスデザインの成功への一歩となります。

余談ではありますが、自身のアウトプットは客観的に評価するのが難しいものです。また、アウトプットの方がインプットよりも優れることは稀で、アウトプットは自身のフィルターを通じて形成されるため、どうしても質が低くなる傾向があるため、情報収集の際には質の高い情報を見極めるスキルを養うことも重要となります。

4.おわりに

デザインの手法は多岐に渡りますが、それを単にそれを知っているだけでは不十分です。需要なのはデザインがビジネスをどのように拓く力を持つのかを理解し、顧客体験を最大化することです。ビジネスデザインは型にはまらず、その背後にある本質を見抜くことから始まります。
デザインは単なる形だけではなく、その中に潜む意味を深く理解し、ビジネスの成功につなげるための有力なツールです。

記事を書いた人

木村 由衣