DXを推進する際に、短期、中期、長期のロードマップを策定し、それに基づいて、まずは小さく進めていくということは浸透してきました。ただし、関係者からの反対や、うまく成果が得られずに停滞するケースは依然として存在します。
描かれた戦略がプロジェクト推進をする上で必要な視点を考慮できていないことが、停滞の原因の一つにあります。
今回は、DXプロジェクトを推進する上で、戦略策定時に盛り込むべき視点やポイントについて整理をします。
そもそもDX戦略を描くために必要なことは?
一般的にDX戦略において、必要になることとしては、下記が考えられます。
ビジョンや目標など、目指すべき方向を示す要素と、それを実現するための体制やシステムなど、目標の実現方法を含む要素が含まれます。
ただし、戦略として要素を綺麗に当てはめたとしても、プロジェクトが進むかどうかは別の話になります。
上記のような要素を盛り込みつつ、プロジェクトを推進させるための戦略策定の要点について、4つを紹介いたします。
①拠り所としてのビジョン明確化
DX関連のプロジェクトでは、既存のビジネスの状況や環境の変化、関係者からの要望など、多くの要因に影響を受けます。
そのたびに戦略の練り直しをするのではなく、ビジョンを拠り所にし、戦略の変更すべき部分を変更し、変更しない部分は固守できるような状態である必要があります。
しかし、ビジョンが抽象的で関係者の共通認識が欠如している場合、この理想的な状態を築くのは難しいです。
経営陣からの「DXをやれ」という号令のもとで立上るケースは多いですが、それでもうまく進まないケースは非常に多いです。トップのリーダーシップは重要ですが、それ自体がビジョンと整合していないとなかなか現場は腹落ちしないものです。
DXで成功している企業では、社員が共通認識を持つ経営ビジョンや経営計画からビジョンを導き出し、それをプロジェクト推進の拠り所として活用しています。
ビジョン策定時には、これがプロジェクトの拠り所になる意識を持ちながら検討することが大切です。
②ギャップへのアプローチ
戦略の策定において、外部のコンサルティング会社やベンダーの協力を得ることが一般的です。
外部から描かれる戦略は、先進的な事例を基に策定されることが多く、自社の現状とのギャップが生まれやすいものです。
現場からは実現不可能だとの反対意見が生じ、社内の協力を妨げる原因になることがあります。
しかし、競合他社に追いつくためにはそのような戦略を実現する必要があります。
そのためには、ギャップを埋める方法を示すことが重要です。
まず、ギャップを正確に把握するために、現場や関係者が抱える課題を詳細に把握します。把握した課題を元に、そこからゴールへどのように進むか具体的なアプローチ方法へ進化させます。
現場の課題に即した具体的なアプローチ方法であれば、関係者も“自分ごと化”して捉えられるようになります。
社内関係者も一方的な反対ではなく、実現可能性について具体的な議論が可能になります。
③ユーザー体験の変革
DXプロジェクトは本来デジタルでの顧客体験を見直すものですが、できることを考えていく過程で、どうしても社内効率化に焦点を当ててしまい、結果的にユーザーの体験が軽視されるケースがあります。
たとえば、カスタマーサポートで自動化を進める際、既存業務の効率化が主要な目標となり、ユーザー体験が細部まで考慮されず、結果として満足度が低下することがありえます。
会社都合の改革にならないように、自社と顧客の双方の視点から、このDXプロジェクトがどのように変革をもたらすかを考慮する必要があります。戦略策定段階での整理を行い、実装や運用段階でもその視点を忘れずに保持することが重要です。
④スモールスタートの目標・条件設定
効果検証、リスク管理、社内合意形成などからくるメリットを考えると、スモールスタートはプロジェクト推進において非常に重要なアプローチです。
しかし、初めやすく、迅速に効果を評価できる一方で、何度も同じことを繰り返す懸念が存在します。
そのため、最初のスタート時に、次のフェーズに進むための具体的な目標や条件を明確にすることが必要になります。
これにより、同じ検証を繰り返してしまうようなことを防ぐことができます。
設定した目標や条件を達成させるうえで、優先順位の低いタスクや過度なこだわりを排除することが、プロジェクトの成果を最大化するために重要です。
一方でスモールスタートの場合は仮説検証の繰り返しになるので、目標や条件そのものが本当にそれでよかったのか、を見直す必要性がでてきます。ビジョンとの整合は保ったなかで、目標や条件自体をある程度流動的にしていくことも必要となります。
絵で終わらせずに実務に結びつける
以上がプロジェクトを推進させるための戦略策定の要点になります。
絵に描いて終わらないように実務に結びつける工夫が共通する重要なポイントになります。
短期・中期・長期のロードマップがある中で、短期の目標・目的とそれに紐づく上位概念・ビジョンが明確に定義され、その上で計画を立てることが必要です。
次回は、プロジェクトを推進するために、どのように社内を巻き込み、合意形成していくかのより実務よりの話をさせていただきます。