【DXコラム4話目】DX推進に立ちはだかる組織の壁:組織横断的プロジェクトをいかにして進めるか?

ここ数年、筆者が関わってきたDX関連(大規模システム導入や、デジタルマーケティング等含む)プロジェクトを振り返ると、ほぼ全てが複数部門をまたがる「組織横断」の課題を解決していくものでした。

そして、これからもしばらくは、様々なお会社でこのテーマに向き合うことが続きそうな雰囲気を肌で感じています。

「組織横断」「タテ割り排除」「部門間協力」というワードが一体何を示しているのか? それはそもそもどういう課題なのか? さらに、少しでもその課題を解決可能なものに近づけるにはどうすればよいか? このあたりを現場の経験に基づきお話してみたいと思います。

なぜ組織横断のプロジェクトが必要になるか?

「DX」というと、そもそもが、データを最大限利用して顧客との関係性を変えていったり、デジタル接点に仕事をしてもらおうという取組みです。

この時点で、既に「顧客視点で考える必要がある」。「あらゆる接点のデータを入手したり繋げる必要がある」。という与件が生じます。つまり、その目的に忠実である以上は、たまたまその時期の組織構造のなかでの仕事の仕方やシステムの違いというのは、あまり言い訳にならない話となります。

同じお客様に、ひとつの会社の色んなところから違う情報が届いたり、お客様に全く異なるしくみに何度もアクセスしてもらう必要があったり、非常に満足度の高い接点と真逆で対応のよくない接点が存在したり、、そういうことは避けたいですよね。

それに、そもそもが「トランスフォーメーション」ですから、変革がテーマである以上は、各部門足並みを揃えて進むのが大前提です。仮に顧客や製品が全く異なるとしても、ゴール設定や進捗確認などは多くの部門で必要となります。

こういったテーマの特性から、組織横断の取組みになることは必然だと理解するのが出発点となります。

では組織をまたぐプロジェクトになるとどういうことが起こるのか?

まず組織というのは事業部にせよ、営業やマーケティングなど機能別の部門にせよ、それぞれ戦略に沿ってミッションをもって組織化されています。つまり上位目標に対するミッションがあり、それを果たすことが組織である以上最重要なこととなります。

そこにどーんと横ぐしでの活動を求められると、そもそもピラミッド構造のなかで設定されている目標とは、ちょっと違う切り口で降りてきた話となり、どうしても後回しになってしまいます。

やはり「邪魔されたくない」、「やらないといけないことがあるのに、仕事を増やしてくれるな、、、」というのが本心です。考えてみれば、真面目な人ほどそうなる傾向が強いと思います。

投資をしてきた取組みを打ち切りにされたくない、ということもあるでしょう。さあこれからというときに、全社ではこういう業務でこういうシステムを使うことになった、と言われると、一気に警戒態勢になり、理論武装に走ってしまう、、これもよくあるケースです。

あとは根っこにある、上位組織に対する心理的反骨心。だいたい思いの強い人ほど、反対することや独自路線を歩むことに美徳を感じて、理屈とは違う世界で頑なになりがちです。

頭では分かっていても、どうしても縦割りの中でやっていきたい、そういう自分たちでありたい、という独立採算型の名残のようなスタンスもあります。

いくつかのパターンを挙げましたが、どこのお会社でもある話ですし、こういう状態ですと、正直、何をやっても進む気がしなくなります。

言い換えると、DXというのはこういう課題に向き合ってひとつひとつ潰していくことだとも言えます。

どうやったら少しでも“ましになる”か?

では、こういう性格の仕事にどう向き合うとよいのでしょうか?

まず初めに覚悟が必要です。DXというと、とかくきれいな絵をかいてそれを実現するのが仕事と思われがちです。組織の話を、そのなかでの「障壁」と考えてしまうと単なる厄介事や不満となって、打ち手が出てきません。そうではなくて、この組織間のコンセンサス作りを、「これ自体が仕事」という認識をするところからでしょう。名前は何DXでもいいです。

次に、そういったスタンスに立った前提で、そのための仕事で手抜きをしないこと。たとえば、ステークホルダーそれぞれのメリットを、短期/長期、定量/定性、組織の各階層、と思いつく視点できめ細かく整理をして、各方面で合意形成を図ること。

それには、仮説検証、分析力、表現力、コミュニケーション能力など、さまざまなスキルがいります。課題をつぶして仕事を前に進める能力こそが、仕事ができるということですし、いわばDX推進人材にも求められるコンピテンシーのひとつだといえるでしょう。そういうチームをプロジェクト内で設けるケースもあります。

会社はしくみと運用で成り立っているので、制度面もやはり大事です。冒頭に申し上げたように、既存の組織自体もきちんと理由があって存在します。組織変更や人事異動を促すような話も手としてはありますが、まずは、「目標と実施事項と評価との連動」。これがないと、組織の力学としての不合理が残ったままになってしまいます。

横断的活動をきちんと目標に組込み、その達成がその部門や個人の評価に反映されるという一貫したものがあれば、草の根活動ではなくオーソライズされたものとして向き合い方が変わってきます。

そうはいってもうまくいかない、というシーンもあると思います。たとえば、全社DX推進のために、ある重要部門があるが、どうにも協力的ではない。それも成果を上げているが故に声が大きくて手に負えない。こういうケースです。

その場合は、少し引いて、「損得勘定」をきちんと考えることも大事です。
巻き込みに要するエネルギーとそこから得られる成果を考えると、あえてそこを避ける実現策を考えることも重要です。

あとは、全体を通じてパワーを発揮するのは、何はともあれデータです。各部門のメリットを説明するのもデータ、ある部門を巻き込まない判断をするのもデータ、トップからの強制力を促すのもデータ、寝技と言われるような、オフィシャルではない場でお酒を飲んで関係作りや説得をすることも効果はありますが、そういう話もそもそもの正しい情報という土台があってのことです。

最後どうしようもなくなったら、いよいよ人事に手をつけることもあると思います。結局、組織は生き物で人の思いの集合体です。思い切ってうまくいかせるための体制や人事を上層部に進言することも重要です。

正解のない世界で、自社にあった自社のDX推進を

さて、いくつか現場発のお話を挙げさせていただきましたが、いかがでしょうか? 
DX推進のスピード感は会社によって本当に差があります。しっかりした企業文化があり雰囲気のよい会社というのが意外と遅かったりします。一方で、社歴の短い社員が多いドライな会社はトップの号令ですぐに進んだりもします。

他社がやっているからそれが自分たちにとっても正解ということはありません。それら企業のいいところどりをして、自分の会社なりのDX推進を見出していくというのが
ある意味最も重要なことかもしれません。

記事を書いた人

横山 彰吾