2023.05.31

カーボンフットプリントとは?図解、製品のCO2排出量「見える化」の仕組みを解説

はじめに

カーボンニュートラルを実現するためには、個々の企業の取組のみならず、サプライチェーン全体での温室効果ガス(GHG)の排出削減を進めていく必要があります。そのためには、脱炭素・低炭素製品(グリーン製品)が選択されるような市場を創り出していく必要があり、その基盤として製品単位の GHG 排出量であるカーボンフットプリント (CFP:Carbon Footprint of Product)の見える化する仕組みが不可⽋です。 今回は、脱炭素社会の実現が重要視されるようになり、注目を集めているワード、「カーボンフットプリント」を紹介します。企業の環境配慮における開示情報が重要視される中、CFPへの能動的な取り組みによる責任を持った開示することで、評価を受けることになります。今後、さらにその妥当性も問われるようになると思われます。欧州を中心に株主市場では投資家をはじめとしたステークホルダーの視線が厳しくなってきており、日本へもその潮流はやってきています。そういった状況に対応していくために、今回はCFPについて詳しく学びましょう。

カーボンフットプリント(CFP)とは?

カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products:CFP)とは、商品・サービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの間に排出される温室効果ガスをCO2に換算し、その商品・サービスに分かりやすく表示する仕組みです。 事業者と消費者の間で Co2排出量削減行動に関する「気づき」を共有し、「見える化」された情報を用いて、事業者がサプライチェーンを構成する企業間で協力して更なる Co2排出量削減を推進します。「見える化」された情報を用いて、消費者がより低炭素な消費生活へ自ら変革していくことを目指すことを目的としています。

引用:環境省, カーボンフットプリント

あらゆる商品・サービスは、作られてから捨てられるまでの間で、多くの温室効果ガスを排出しています。たとえば、加工食品であれば、原材料となる家畜の飼育過程や原材料を入れる容器の製造、商品加工時の工場での水・電気・燃料の使用、商品輸送時の燃料の使用、廃棄・リサイクル時の焼却・埋め立て処理など、あらゆる工程で温室効果ガスが排出されています。これらの加工食品のライフサイクル(原材料調達から廃棄・リサイクルまで)で排出された温室効果ガスをCO2に換算し、商品に表示するというのがCFPです。製品・サービスのCO2排出量を可視化し、サプライチェーンを構成する事業者が排出削減の推進に役立ちます。さらに、消費者へCO2排出量を知る機会を作ることで、消費者が低炭素な商品・サービスを選ぶような意識変革を促すことができます。

CFPが注目された背景

産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えることが訴えられてきました。2021年8月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が公表した第6次評価報告書では、 今後の気温上昇や異常気象などの極端な気候変化を含めた将来予測も示し、地球環境問題への警告喚起をしています。また、2021年11月に英国で開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える努力を追求するとした合意文書を採択しています。1.5℃目標の実現には、世界のCO2排出量を2030年までに2010年比で45%減らさなくてはなりません。これは、2050年には世界の二酸化炭素排出量を実質ゼロにする必要があるとしています。こういった世界動向をうけ、日本では2020年10月に行われた第203回国会において、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050年カーボンニュートラル」に挑戦し、脱炭素社会の実現を目指すための取り組みを進めることが宣言されています。こうしてカーボンニュートラルの重要性は増し、合わせてCFPの概念も広まったのです。

CFP算出方法

CFPの排出量は「ライフサイクルアセスメント(LCA)」と呼ばれる手法がベースとなって算出されています。ここではLCAの詳細説明は割愛しますが、LCAの概要としては商品のライフサイクルにおける環境負荷を定量的に算出・評価する手法です。LCAの場合は、温室効果ガスの排出量だけでなく、資源枯渇やオゾン層破壊、騒音などあらゆる環境負荷を対象に算出されますが、CFPの場合は温室効果ガスの地球温暖化への影響のみが評価の対象となるという違いがあります。
補足:LCAの詳細はこちらから参照ください。

排出量の算定方法における課題

CFPを進めるにあたって製品のCO2排出量の算定で配慮するべきは、算定時にLCAで見た時の排出量は小さいものの、製造時の排出量が大きい製品をメーカーが作りたがらなくなる可能性があります。省エネ製品などは使用時の排出削減効果は高いですが、製造時工程での排出量が従来製品より大きくなることがあります。企業に排出限度を設ける「国内排出量取引制度(キャップアンドトレード制度)」を制定することで製造時の排出量と使用時の排出削減に配慮することが必要となりました。経済産業省、環境省は、省エネ商品を製造する事業者への配慮の方法について検討を開始しています。

引用:環境省  国内外での排出削減に貢献する製品への配慮

CFPの取り組みStep

企業がCFPに取り組むステップを簡単に紹介します。以下のステップを実施し、効率的な活用方法で取り組むことが必要です。
① 算定⽅針の検討:CFP に取り組む⽬的、算定ルールの考え⽅を検討する
② 算定範囲の設定:算定対象とする範囲を明確化する
③ CFP の算定:上記①及び②を踏まえ、製品ライフサイクル全体での GHG 排出量を算定する
④ 検証・報告:算定した CFP の確からしさを検証し、利用⽬的に応じて報告する
⑤ 評価・活用:CFP を受け取った者が、CFP を用いて評価、調達などに活用する

CFPを取り巻く動向

  1. 国内
  2. 従来より、日本では、製品の環境情報を定量的に表示する「エコリーフ環境ラベル」と呼ばれるものがありました。これは、インターネットなどを通じて製品の環境情報を公開し、環境ラベル利用者がグリーン購入・調達に活用するとともに、メーカーが環境負荷のより少ない製品(エコプロダクツ)を開発・製造・販売していくための動機付けとなることを狙ったものです。さらに、商品・サービスのライフサイクル全般で排出された温室効果ガスをCO2排出量に換算し、商品・サービスに見える化させる制度として、「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム(CFPコミュニケーションプログラム)」があります。現在、この「CFPコミュニケーションプログラム」と「エコリーフ環境ラベル」の2つは統合され、「エコリーフ環境ラベルプログラム」として運営されています。企業と消費者でCo2排出量削減における情報を可視化し、サプライチェーン上の事業者で協力を促すことを目的としています。

  3. 海外
  4. ドイツでは政府の取り組みと民間での取り組みがあり、政府の取り組みとしては、ドイツの環境省がカーボンフットプリントの算定方法(Carbon footprint methodology)を策定しています。また、民間では、大手企業10社(BASF、dm-drogerie marktなど)が自ら出資を行ってカーボンフットプリントの算定方法を検討するためにPCF(Product Carbon Footprint)パイロットプロジェクトを自主的に実施しています。アセットの接続性と相互運用性を実現するオープンスタンダード「アセット*管理シェル」(Asset Administration Shell:AAS)を用いた実証プロジェクトです。オープンスタンダードであるアセット管理シェルの考え方や規格を取り入れることで、特性が異なるさまざまなメーカーの設備や機器などを単一の方式でつなげることができるようになり、これを用いて製品カーボンフットプリントの追跡を可能することを目的としています。
    *アセット:フィジカル(現実世界)に存在する設備や機器、人、システムなど

まとめ

CFP実現のためには、サプライチェーンに関わる製造・提供側の企業だけでなく、消費者も巻き込み、共同して取り組むことが必要になります。CFPへの取り組みは顧客企業や消費者に対して、環境価値を訴求し、グリーン製品の選択を促すことにつながります。またサプライチェーン上の各企業が CFP を算定・共有することは、製品のサプライチェーンにおける排出量を⾒える化し、各企業間で連携した排出削減対策の実施を促進できるのです。企業がCFP の算定と削減を切り口としてLCA に積極的に取り組むことで社会全体の環境問題解決へ大きく加担することとなるでしょう。