2017.09.28

グローバルCRM実現で必要となる3つの視点(後編)

前回コラムでは、グローバルでのCRM展開でプラットフォームをどうするか(1プラットフォーム or 複数プラットフォーム)検討する際のポイントとして以下の3点を挙げました。

【グローバルCRM実現のためのプラットフォーム検討ポイント(再掲)】
1. 事業特性
2. グローバルでのオペレーション標準化の必要度合い
3. 各国(各エリア)の規制(特に個人情報関連)

本社IT部門はひとつのツールで標準化したい。でも各国はそれぞれ好きなものを使いたい。その相反する要望に対する“落としどころ”を、これらの視点から探っていきたいと思います。

【1. 事業特性】

プラットフォーム検討ポイントとしてまず考えるべきは「1. 事業特性」、特に顧客がグローバルアカウントを相手にするビジネスかどうか、という点になります。

B2Bのグローバルビジネスであれば、相手も各国拠点があり、それぞれでの活動を情報共有しながら最適なものにしていきたいですよね。そういったニーズの高い会社のケースです。

例えば、地域や国によらずグローバルアカウントに対して一貫性があり足並みのそろった提案活動やサービス活動が必要となった場合、自社の海外拠点間での密な情報共有とシームレスな業務の連携が必要となりますが、そういったことは1プラットフォーム、つまり各国で同じツール上で情報をリアルタイムに共有している状態の方がより容易に実現できるでしょう。

複数プラットフォームの場合に、各拠点間で情報共有・業務連携するには、各プラットフォーム間でのデータの連携は必須となり、全体として最適な形を実現するためには、緻密な設計と多くのコストが必要になってきます。

何より、情報が遅れて機会ロスをする、サービス品質が落ちる、といったことはグローバル企業としては致命的です。そのための対策は膨大な運用負荷か、1:nの気が遠くなるようなシステム連携の実現だということです。

 

【2. グローバルでのオペレーション標準化の必要度合い】

前述のグローバルアカウントという決定的な情報共有のトリガーがないとしても、会社の方針として「標準化」にプライオリティを置いているかどうか、は判断のポイントのひとつとなります。

よくあるのが、グローバルレベルでの、ブランドや顧客のエクスペリエンスの一貫性にこだわる場合や、業務プロセスやKPIを統一する、というマネジメント目的の場合です。

グローバル統一のブランドイメージを醸成していくという全社方針を打ち出したとしても、各国拠点が好き勝手にマーケティング活動できる状況であるならば、方針実現は困難です。顧客からみてもバラバラな会社に見えてしまうでしょう。

マーケティング/営業/アフターサービスといったCRM領域のオペレーションは、顧客(すなわち市場)を相手にするものであり、その顧客は地域や国によって異なり、かつ絶えず変化するものです。

だからと言って業務が個別最適化されすぎると、よいノウハウがどこかにあったとしてもそれが共有されることもなく、今すぐ知りたいデータなどがあっても、そもそも把握するすべがないなど、様々な問題が出てきます。

急激な市場の変化があった場合など、各国の営業活動を本社で把握して、問題があればできるだけ迅速に有効な手を打つというニーズは突然現れます。そういう事態になったとしても、営業プロセスが各国拠点間で大きく異なっていれば、状況把握すら覚束ないでしょう。

上記ケースはあくまで一例ですが、グローバルでのCRM方針・戦略を打ち立て、実現していくためには、オペレーションはできるだけ標準化した方がよく、1プラットフォームという形態は有効と言えます。

ただし、グローバル共通の指標で各国状況を横並びで見るくらいのことであれば、複数プラットフォームでも実現可能であり、標準化の必要度合いだけでなく、その範囲も含めて検討するのが肝要です。

 

【3. 各国(各エリア)の規制(特に個人情報関連)】

各国の規制ですが、これらは今後変わる可能性も高く、コントロールできない部分が大きいものです。

顧客データを扱うという宿命上、そのデータを置く場所に関する制約、共有できる範囲に関する制約、管理の厳格化度合いに関する制約など、グローバルのCRMの構成を考えるうえで、経験しなければわからないことは数多いです。

その際に重要なことは、市場としてそれらの国をどう位置付けるかだと思います。何がなんでも情報共有や手元でのデータ管理を実現しなくてはならないような市場なのか、ハードルが高いのであれば統制外という扱いでも問題ない市場なのか、そういった必要性と実現のハードルの両面で考える必要があります。

そういった意味でも
• まずは上で述べたような自社のグローバルでのCRM戦略を明確にし、それを実現するためのプラットフォームについての大枠の方針を定める。
• その上で現時点の規制(もしくは現時点で見えている発効予定の規制)をクリアできるか確認し、できない場合どのように対応するかプラットフォームを見直す。
といったアプローチが良いでしょう。

プラットフォーム決定後に各国規制をクリアできないことが判明するようなケースもあり得ますが、最初の段階でグローバルでのCRM戦略とそのためのプラットフォームに関する方針が明確になってさえいれば、目的を達成しつつ規制もクリアする現実的な落としどころが、比較的容易に見つかるのではないかと考えます。

 

【まとめ】
• グローバルアカウントが相手のビジネスは1プラットフォームが最適。
• 各国ローカルアカウントが対象の場合、グローバルでのCRM戦略を実現するために、オペレーション標準化の必要性がどれくらいか、どこまでローカライズを許容するかを検討し、1プラットフォーム/複数プラットフォームか方針を決める。
• 大枠のプラットフォーム方針を決定した後、各国の規制を確認。クリアできない場合は現実的な落としどころを見つける。(可能な限り方針に沿った形で)

グローバルでのCRM展開は、CRMが顧客(=市場)を対象とする領域であり、顧客は地域・国によって様々であるが故に難しい部分もありますが、グローバル展開する企業にとっては避けては通れない重要な取り組みです。
本コラムをお読みいただいた皆様の何らかのベネフィットにつながれば幸いです。

記事を書いた人

野中 翔