DX時代にますます重要となる「デザイン+ビジネス」融合

ここ数年、グローバルレベルで、大手のコンサルティング会社がデザイン能力をもつクリエイティブエージェンシーを内部に取り込む動きが数多くみられるなど、「デザインとビジネスの融合」というテーマは驚くような話ではなくなってきています。

ビジネスコンサルティングの現場にいて、お客様の経営に関わる難題を経験すればするほど、この動きは必然で、非常に理にかなったものだと思えてきます。

 

ビジネスにデザインが求められることに関して、大きく3つほどの見方が挙げられます。

  1. 企業変革を考えるときの「発想」の部分で、デザイン思考を取り入れること。つまり、ロジカルシンキングでの問題解決の限界をいかに突破するか。
  2. DXの時代になり、これから「コンテンツ」がコミュニケーションの主役になろうとするなか、タッチポイントのクオリティをいかに向上させるか。
  3. 「ビジネスコミュニケーション」の場で議論や意思決定を加速するために、いかに分かりやすく伝わりやすい方法を取り入れるか。

すでに「正しいけれど、分かりにくい資料・コンテンツ」は仕事の現場では通用しないですし、「ロジカルだけれど、他の会社と同じ解決策」も経営的にはなかなか価値に結び付きません。

今までのことを否定するわけではないですが、昨今の経営環境の変化のなか、ビジネスのあらゆるシーンでデザイン要素の必要性が高まってきているのは必然ではないかと思います。

当社でも上記1~3すべて重視をして、デザイン専門会社との協業も積極的に進めています。そのなかでも特に、デジタルマーケティングのプロジェクトを数多く行っている関係上、上記の2については私共なりの経験も蓄積されてきているので、事例を交えながら紹介していきたいと思います。

コンサルティング会社がデザイン要素を取り入れた仕事をすると、どうなるかを再確認していただけたら幸いです。

 

デジタルマーケティングにおける「ビジネスだけでの限界」、「デザインだけでの限界」

「デジタルコンテンツを顧客に届けることで、気持ちの変化や態度変容を促したい。」こういったビジネスニーズがあるときを例にとって話を進めてみたいと思います。

マーケティングオートメーションが当たり前になった今となっては、顧客の属性やニーズに合わせて、タイムリーにメールを送るまでは難なく行えるようになりました。あとは、コンテンツがいかにいい仕事をしてくれるか。それにかかっているといえます。

これをデザイン会社、制作会社が単独で行う場合にありがちなケースは2つほど挙げられます。ひとつは、メール・LPそのものを制作物としていかによいものにしていくか、に注力するケース。もうひとつは、ぐっと上流から入って、ユーザー視点+デザインという仕事をするケース。

また、デザイン機能をもたないビジネス系のプレイヤーが行うとどうなるか? しくみとしての完成度は目指すものの、コンテンツのデザインに対するアテンションは低く、作り手目線での画面作りレベルに留まるケースもしばしば見受けられます。

上記のケースはいずれも、狙った成果には結び付きにくいです。デザイン会社の例でも、単純に印象的であるとか、クリック率は上がる等の効果は期待できると思います。しかし、それはビジネス面での期待とは少しレイヤーが異なるものです。

 

デジタルコンテンツは「理由のある」デザインを

そこで「デザイン+ビジネス」で取組んだ場合に、どういうアプローチになるかを紹介したいと思います。重要なポイントは3つあります。

1.ペルソナはユーザーだけでなく「企業側」も

対象となるユーザーのペルソナを描くのは今や一般的ですが、コンテンツは企業側からメッセージを伝える「人」のようなものです。そう考えると、その担当者は「どういう人であるべきか」という企業側のペルソナ(パーソナリティ)は極めて大事で、それがデザインへのインプットになります。

2.目的に応じた、一貫性と個別性のバランス

ビジネス観点でいうと、「マーケティングプロセス」は非常に重要です。ユーザーには様々な企業からのメッセージが溢れているなか、ナーチャリングのようなことを行う場合は、一貫性・連続性をもたせて刷り込みをすることが必要となります。また、そのなかで、ユーザーがどのステージにいるかによって、そのときの気持ちに応じた最適化をしなくてはならない。この一貫性と個別最適はバランスです。そういう考え方も、デザインのなかに反映されなければなりません。

3.ユーザーに何をさせたいかに基づく情報構造

よりビジネスを俯瞰して見ていると、「開封率、クリック率」を簡単に何%だから良い/悪いと判断することはありません。そもそもそのタッチポイントで何をしてほしいかによってKPIも変わってくるのが当然です。そこから考えて、望ましい情報構造(いわゆるIA)まではロジカルに考え、あとは専門家であるデザイナーのもつ、デザインの原理原則を「活用して」、やりたいことを形にします。

 

実際に当社でもあるお客様で、デザイン刷新のお仕事をさせていただきました。そのお客様は、数年前からMarketoを活用して丁寧なナーチャリングを行ってこられましたが、コンテンツが数も増えて、それぞれのコンテンツが営業の役割を果たすほど重要度を増してくるなか、ビジネス目的に沿ったデザインを取り入れる形に全体的な見直しを図りました。

その際には、当社のビジネスコンサルタントが上記の1~3に深く関わり、途中からクリエイティブチームとの「協業」に入りました。その過程では、コンサルタントとデザイナーの認識共有やすり合わせを行い、さらに方向性を示す役割のお客様にも納得いただき、皆でひとつのゴールに向かった相互理解のうえで完成させました。

 

こういったプロセスがあれば、デザインの「どの部分はどういう狙いで作っているか」が説明できる状態のものになるはずなので、測定~改善のプロセスになったときにも振り返りをやりやすくなります。

 

実務的にはこの「相互理解」の部分はとても重要です。ここをお互いに「お任せ」にして手を抜くことはせず、ビジネス側もクリエイティブには耳を傾け必要なら口出しをし、クリエイティブ側もビジネス要件に関する理解を深めるとともに分からない部分は徹底的に聞き出すことは重要です。

ここは、相手に対する期待・要望を言うだけでなく、お互いに見えていないところも相互乗り入れをして、自分事にしていかなければなりません。心理学でいう「ジョハリの窓」をイメージしてみてください。

このように専門家がそれぞれ、役割分担というよりも「協業」を意識して、共通のゴールに向かった仕事をすることで、はじめてビジネス目標と合致したマーケティングコンテンツができあがります。

 

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今回はビジネスとデザインの融合の一つの側面について述べましたが、追々他のことについても実例を交えて紹介していきたいと思います。

ユーザーがコンテンツを目にするのは一瞬。サービス業でいう「真実の瞬間」と同様で、そこで目にするものがその会社そのもの。今後DXの時代がさらに加速されるなか、ますますタッチポイントで成否が分かれるようになるので、クリエイティブもビジネス要素と考えて手を抜かずに臨んでほしいと思っています。

記事を書いた人

土成 征広