はじめに
日本は2020年に脱炭素社会に向けて、2050年までにCo2(二酸化炭素)を排出実質ゼロにすることを宣言しました。カーボンニュートラル実現に向けて、エネルギー・産業部門の転換、大胆な投資によるイノベーションの創出といった取り組みが求められると同時に、大手企業は対応策の検討を急速に進めています。そういった中で、事業に伴うCo2排出量を算定するシステムソリューションが法人向けに開発が進んでいます。今回は、企業におけるCo2の「見える化」の必要性、メリットや事例を紹介します。

Co2の可視化とは?

その名の通り、二酸化炭素の排出量の算定を「見える化」することです。商品の原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの一連のサイクルを通して排出されるCo2の排出量を、商品・サービスに表示することを「カーボンフットプリント」と呼びます。この仕組みを使い、企業は自社のサプラオチェーンにおける全体のCo2排出量の算定による可視化をすることが求められています。

  1. 可視化の範囲
  2. Co2排出量の算定には、自社による直接排出(scope1)、電気など他社で生産されたエネルギーの使用に伴う間接排出(scope2)、事業者の活動に関連する他社の排出(scope3)があります。自社の事業に合わせたscope範囲を理解することで、Co2排出量算定ツール導入の選定をする必要があります。

    参考出典:グリーンバリューチェーンプラットフォーム(経済産業省/環境省) https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html#no00

  3. Co2排出量可視化に伴う情報開示の提供対象
  4. 排出量の情報提供対象としては、国や地域、企業や自治体、投資家、金融機関などに開示することが求められます。環境問題に対する企業の対応が強いられる中、投資家や金融機関への脱炭素に向けた開示情報の重要性が高まっています。2021年にはコーポレートガバナンスコード(企業統治指針)が改定され、主要企業はCo2の排出量を可視化することが求められています。情報開示をしないと取引しない、などステークホルダーからの情報開示要求は一層強まることでしょう。

Co2可視化に取り組む企業のメリット

先述した通り、金融機関や投資家、ステークホルダーへの情報開示対策としてCo2排出量可視化は価値があるものです。日本全体のCo2排出量のうち、企業活動が占める割合は80%以上となっています。企業が二酸化炭素削減に取り組むことは、環境問題に対する取り組みをしている点で評価される重要なポイントです。具体的なメリットとして、下記のようにまとめられます。

  1. 気候変動や地球温暖化などによる環境問題
  2. 消費者は環境配慮型のブランドを意識的に選択する風潮にあります。さらに、金融機関や投資家は企業活動が環境へどう影響するかを評価基準の一つとして採用する時代へと変化しています。「見える化」することで環境活動に取り組む姿勢を示すことができ、ステークホルダーの要求・期待に応えることに繋がります。適切な情報開示による企業の透明性を公表することは、融資や新規顧客獲得などビジネスチャンスの拡大も期待できるでしょう。

  3. 情報開示への対応
  4. 地球温暖化に歯止めをかけるべく、欧州諸国をはじめアメリカや中国などの大国も国を挙げて取り組みを開始しています。2021年に開催されたCOP26においては、パリ協定の目標達成への協力的な取組を実践するとして、共同声明を発表しました。現在では、120カ国以上の国や地域が2050年までのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを実施しています。そういった世界各国の積極的な取り組み、さらに国際的なイニシアチブの発足や欧州主導のルールメイキングが、企業の環境対応に伯爵をかけているのです。

  5. 企業価値の向上
  6. Co2可視化に取り組み、環境対応による企業の透明性を主張することで企業価値を向上させ、イメージや好感度アップにつながります。近年、消費者は環境保全に繋がるサービスを評価する動きも見られるため、前向きな支持を期待できるでしょう。

  7. 具体的な対策の検討
  8. 早い段階でCo2排出量可視化算定ツールを導入することで、自社の課題を早期に認識し、ホットスポットを把握することで、具体的な削減の取り組みが可能となります。これは社会における企業価値の向上や、根本的な環境問題解決に重要なステップとなります。

Co2可視化における企業の課題

  1. 算定方法
  2. サプライチェーン上のCo2排質量を算定すべく、システムソリューション導入や専門コンサルタントを使い、対応を実施します。しかし、多くの企業は事業活動におけるサプライチェーン上のCo2排出量を正しく算定することができていません。自社から発生したCo2であれば、ガソリンや電力の消費量を集計して計算することで簡易的に可視化できます。しかし、開示が求められているのはそういった自社から発生しされる二酸化炭素だけではなく、サプライチェーン上の他社に紐づく排出量を算定する必要があります。(※以下、図参照)となると、排出量の算定方法が数多くある中で、各企業が保有するデータに応じた算出方法を選定することが困難です。

  3. 時間的制約
  4. そもそも各企業が従事しているビジネスとしての事業がある中で、環境対応に割く時間を確保することは困難ですし、組織の視点をそこに持っていく意識改革には時間がかかります。先進的な企業はscope3の範囲まで排出量削減に向けた取り組みを進めていく動きがあります。そういった大企業においては、サプライヤーやステイクホルダーとの繋がりが広いため、サプライチェーン全体でのCo2排出量を把握するのは難易度が高いと言われています。正確に可視化しようとすると、それぞれのサプライヤーとの連携に時間と手間がかかってしまいます。

  5. 人材確保
  6. 随分前から、環境問題の課題に企業が対応することは必要でした。しかし、実際に開示情報を求められ、企業が対応をせざるおえない状況となったのは近年になってからです。そういった中で、社内にノウハウがないことで、誰が対応するのか、人材育成と確保が課題となるでしょう。製造業に比べて飲食チェーンや金融事業者といったサービス業では、従来、開示が求められていなかったこともあり、課題認識の低さとノウハウが備わっていないことが多いです。 こうしたサプライチェーン上のCo2排質量可視化に対する課題を解決するため、どのようなソリューションが展開されているのか、代表的な事例を紹介します。

代表的な脱炭素ソリューション

  1. ゼロボード
  2. ゼロボードは、自社のオフィスの電気使用量などを入力することで、簡単にCo2排出量の算定が可能です。操作の簡易性や認知度の高さから、導入する企業が多いです。調達する製品ごとの排出原単位を用いて算出を実施することが特徴です。2022年に正式版をリリースし、ゼロボード導入支援によるコンサルサービスによる支援もビジネスとして立ち上げている企業も出てきました。Co2可視化におけるソリューションとして注目されるきっかけとなったポピュラーなシステムソリューションとも言えるでしょう。

  3. アスゼロ
  4. アスエネが提供するCo2排質量の見える化・削減・報告の支援が可能なクラウドサービスです。Co2はじめ温室効果ガス・Co2排質量の算出・可視化、削減・カーボンオフセット、さらにscope1―3のサプライチェーン全体の報告・開示情報の支援が可能です。国際イニシアチブであるCOPの気候変動スコアパートナーの知見を活用し、開示情報の支援も実施しているという点で信頼性は高いのではないでしょうか。ワンストップ、トータルサポートが特徴といえます。

  5. Wastebox
  6. ウェイストボックスはCo2排出量の可視化に特化した環境ソリューションプロバイダーとして、幅広いサービスを展開しています。自社の製品サービスの排算定、サプライチェーン排出量の算定・管理・情報開示支援はもちろん、CDP*1(カーボンディスクロージャープロジェクト)やSBT*2(企業版2℃目標)の策定まで対応が可能です。幅広い手法を適用し、各企業に即したサービスをカスタマイズし提供しています。


CDP*1: 世界の企業や都市に対して、気候変動対応の戦略や温室効果ガス(GHG)排出量削減の取り組みなどを評価する世界有数のESG評価機関
SBT*2: Science Based Targets(科学と整合した目標設定)の略称。企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標設定のひとつで、2015年のパリ協定で誕生

上記に挙げた3つはあくまでも代表的なソリューションですが、カーボンニュートラルが注目される中、さまざまなサービスが提供され始めています。今後もCo2見える化へのソリューションは増え続けるでしょう。そういった中で、自社の状況を正しく把握し、即したサービスを選択することが重要になってきます。

まとめ

「カーボンニュートラル」「脱炭素」というキーワードが注目されている中で、社会、国、企業にとって最重要アジェンダの1つになりつつあります。連日、Co2排出規制政策や国際協調の枠組み、投資家の動向、消費者の意識、企業の先進的な取り組み、とあらゆる内容の記事が後を立ちません。そういった世の中の展開を理解し、企業は迅速にアクションする必要があります。カーボンニュートラルといっても領域が広く複雑である、時間軸が長い、将来の展開が不透明である、などが影響し、全体像が見えづらいため、企業は尻込みしてしまいがちです。しかし、先述したように、話題が多く出ていることから、重要性、緊急性は高まっています。企業の環境対応は、チャレンジングなことではありますが、同時に競争力強化へのチャンスをもたらすものでもあります。自社のサプライチェーン全体で脱炭素はどれくらいできているのか、排質量の算定を正しく実施することがカーボンニュートラルの達成に向けた活動に拍車をかけ、対応策を講じることができるでしょう。