2023.07.19

「マテリアリティとは?企業におけるマテリアリティの重要性を解説!」

マテリアリティとは

マテリアリティという言葉を聞いたことがあるでしょうか?日本語では「最重要課題」と訳されます。言葉自体はなじみがないかもしれません。これを航海に例えて考えてみましょう。あなたが大海原に立つ船の船長だとしたら、無数の島々が点在する海を航行するためには、その中からどの島を目指すべきか、どの島が重要な寄港地であるかを決める必要があります。しかし、全ての島に立ち寄ることは、時間もエネルギーも足りません。船長として、自分の船(企業)と乗組員(ステークホルダー)にとって最も価値のある島(課題)を選ぶべきです。この「最も価値のある島を選ぶ行為」がマテリアリティの本質です。それは、企業が無数の課題の中から最も重要な課題を選び、その解決に向けて資源を集中的に投入する行為を指します。このマテリアリティの選択によって、企業は持続可能で成長し続けることが可能となります。このマテリアリティの重要性を理解し、適切な選択をすることが、私たちが目指す「持続可能な未来」につながるのです。

企業の持続可能な成長や社会的責任を考慮した時、どのような事項が重要であるかを判断するための指標として、企業の業績や経営戦略に重大な影響を及ぼす可能性のある要素、またはステークホルダーが最も関心を持つ事項を特定できます。これらの要素は、環境、社会、ガバナンス(ESG)の観点から見られることが一般的で、企業のビジネスモデルや業界の特性、短期的な経済的成功だけでなく長期的な持続可能性にも影響を及ぼすものです。そのため、企業のサステナビリティ推進を行う上では、このマテリアリティの特定が必要不可欠となります。また、統合報告書やサステナビリティレポート、CSR報告書など、外部への情報開示を行う際にもマテリアリティの内容や特定に至ったプロセスについての記載が求められているのです。

では、これまで語られてきた会社のミッションやビジョンという概念と、どのような違いがあるのでしょうか。ビジョン、ミッション、マテリアリティは、それぞれ異なる概念をもち、それぞれ異なる目的と役割があることを理解しておく必要があります。(以下参照)

  • ・ビジョン:企業が将来どのような存在になりたいか、どんな世界をつくりたいかを描くものです。ビジョンは遠くの未来を指し示し、それに向かって進む方向性を示します。
  • ・ミッション:ミッションは、ビジョンを達成するために企業が何をするべきかを示すものです。これは企業の存在意義ともいえ、それが何のために存在し、何を目指しているのかを明確にします。
  • ・マテリアリティ:マテリアリティは、ビジョンとミッションを達成するために、現在直面している具体的な課題や重要なテーマを特定するものです。これはビジョンやミッションの具体的な実現に向けたステップを特定するプロセスともいえます。

つまり、ビジョンは「目指すべき未来」、ミッションは「それを達成するための行動方針」を示し、マテリアリティは「その達成に向けて重要な課題やテーマ」を特定します。これらを組み合わせることで、企業は戦略的な意思決定を行い、持続可能な成長を目指すことが可能となります。

なぜマテリアリティは重要なのか?

マテリアリティは、企業のビジネス戦略における重要な要素となります。それは企業が自身のリソースをどのように配分し、どのような課題に対応するかを示すものです。さらに、ステークホルダーに対して企業がどのような価値観を持ち、どのような目標を追求しているのかを示します。一方、それが反映された企業の経営戦略は、企業の競争力を高めるだけでなく、投資家や消費者からの信頼も得ることができます。

マテリアリティは企業にとって重要である理由がいくつもありますが、ここでは主に次の三つの観点からその重要性を説明します。

① ビジネス戦略の中心としての役割
1つめに、マテリアリティはビジネス戦略の中心としての役割を果たします。企業が直面している環境、社会、ガバナンス(ESG)の課題を理解し、それらに対応する戦略を立てるためにはマテリアリティ分析が必要不可欠です。これにより、企業はリソースを最も重要と判断された課題に集中し、価値を創造することができます。また、経営陣は戦略の優先順位を決定し、意思決定を行うための明確なガイドラインを得ることができます。

② ステークホルダーエンゲージメントの強化
2つめに、マテリアリティはステークホルダーエンゲージメントを強化します。企業はマテリアリティ分析を通じて、ステークホルダーが最も関心を持つ課題を特定することができます。これにより、企業はステークホルダーとの関係を強化し、信頼を築くことができます。さらに、ステークホルダーとのオープンな対話を通じて、新たなビジネスの機会を発見することも可能です。

③ リスク管理と機会の特定
3つめに、マテリアリティはリスク管理と機会の特定に役立ちます。マテリアリティ分析を通じて、企業は現在あるいは将来直面する可能性のあるリスクを特定し、それに対処する方法を計画することができます。同時に、これらの課題に対応することで新たなビジネスの機会を発見することもできます。例えば、気候変動に対する対策を通じて、エネルギー効率の高い製品やサービスを開発することが可能です。

このように、マテリアリティは企業によって重要なフレームワークとなるのです。

企業はマテリアリティをどのように特定すべきか?

マテリアリティの特定は、内外のさまざまな要素を評価することから始まります。これには、環境への影響、社会的影響、労働条件、人権、企業のガバナンスなどが含まれます。企業はこれらの課題を自身のビジネスモデルや戦略、ステークホルダーの期待と結びつけて考え、どの課題が自社にとって最も重要かを特定します。以下、企業がマテリアリティを特定する5ステップを紹介します。

  1. 1,自社の特徴を把握し、概要を作成する
  2. 自社の事業活動を把握し、自社と取引関係のあるステークホルダーを識別しましょう。ステークホルダーは、従業員、顧客、投資家、サプライヤー、地域社会、政府、NGOなど、企業のビジネスに関与するすべての個人や団体を含みます。

  3. 2,影響を特定する
  4. ステップ1で洗い出した情報をもとに、企業が社会に与える顕在的影響と潜在的影響を特定していきましょう。企業が社会に与えるプラスとマイナスの影響を両方から考え、特定することが求められます。自社だけでなくステークホルダーからの評価や情報、対話を通じて総合的に判断することが求められます。

  5. 3,課題の特定と評価
  6. ステークホルダーからのフィードバックに基づき、企業が直面している主要な課題を特定します。さらに、それらの課題が企業に与える影響度と、ステークホルダーがその課題にどれだけ重要性を感じているかを評価します。

  7. 4,マテリアリティマトリクスの作成
  8. 課題の影響度と重要性に基づき、マテリアリティマトリクスを作成します。マトリクスは、企業が優先すべき課題を明確にし、資源の配分を決定するのに役立ちます。マトリクスを作成し、優先順位付けを行いましょう。

  9. 5,結果の検証と報告
  10. 最後に、結果をステークホルダーに検証してもらい、修正を行います。そして、企業のウェブサイトや持続可能性レポートなどを通じて、結果を公開します。これにより、企業はステークホルダーとの透明性を保ち、信頼関係を強化することができます。自社の事業活動が社会に影響を与える項目を、漏れなく正確に選定することが重要です。

企業とサステナビリティの関係性と取り組む意義

サステナビリティ・マーケティングにおいて企業が行うのは、環境や社会における問題の解決です。企業が一丸となって、環境配慮のもと事業活動をすることは、企業の社会的責任です。これがブランディングや顧客とのつながりの強化、商品・サービスの認知等のメリットにつながってきます。この「直接的に商品やサービスを売り込むのではなく、知ってもらうことで成果につなげよう」という流れが、このサステナビリティマーケティングにおいて重要な視点となります。SDGsが訴求されている世の中で消費者の意識も変革しています。その流れを企業はキャッチし、マーケティングとして活用すべきなのです。

マテリアリティの活用

企業は、マテリアリティを活用することで、社会的・環境的課題への対応を強化し、持続可能な成長を達成するための戦略を策定することができます。これにより、企業は長期的なビジネスの成功を実現し、社会に対する責任を果たすことができます。また、ステークホルダーとの良好な関係を築き、企業価値を向上させることにも寄与します。具体的な活用ポイントは以下です。

✓ 戦略的な意思決定に活用する
✓ ステークホルダーとの対話に活用する
✓ リスク管理と機械の発見に活用する

このように、マテリアリティを特定し、活用することは企業にとって重要であり、かつ持続可能な組織づくりに役立ちます。

企業事例

ここで具体的な企業事例を紹介します。一部の先進的な企業は、マテリアリティの概念を取り入れ、その経営に活用しています。

  1. ユニリーバ
  2. マテリアリティ分析を行い、最も重要な課題を特定しています。分析を通じて、気候変動、持続可能な調達、公正な雇用と社会的公正、健康と衛生など、ビジネスにとって重要な課題を特定しました。これらの課題に対する取り組みは、ユニリーバの経営戦略の一部となっており、持続可能な達成目標を掲げています。
    https://www.unilever.co.jp/files/925e6b8d-ad31-4a60-a5cf-4d5ffb6bee0f/jp-new-unilever-compass-pdf.pdf

  3. パタゴニア
  4. アウトドア衣料品のリーダーであるパタゴニアは、自社のマテリアリティとして環境保全を挙げています。彼らは、環境に優しい素材の使用や、リサイクル可能な製品の開発に取り組むことで、そのコミットメントを実現しています。
    https://www.patagonia.jp/social-responsibility/

  5. Microsoft
  6. テクノロジーカンパニーの代表企業であるMicrosoftは、マテリアリティ分析を通じて、プライバシーとデータセキュリティ、人権、雇用機会の平等、環境保全といった主要な課題を特定しています。これらの課題への対応を通じて、Microsoftは社会的責任と業績の両方を向上させることを目指しています。
    https://www.microsoft.com/ja-jp/mscorp/msp/responsibility.aspx

  7. トヨタ
  8. 自動車産業のトヨタは、マテリアリティ分析により、環境保全、製品安全、労働者の健康と安全といった重要な課題を明らかにしています。これらの課題に対する取り組みを通じて、トヨタは製品の価値と企業の社会的責任を両立させています。 企業価値の向上、社会(SDGs)への貢献、創業の精神、モビリティカンパニーへの変革といった4つの考え方を軸に、6つのマテリアリティを特定しています。
    ―参考―
    人間性尊重、多様な人材の活躍
    安全・安心で良品廉価なクルマづくり
    安定した経営基盤の維持
    未来のモビリティ社会の構築
    気候変動対応と新エネルギーの利活用
    強靭で持続可能なバリューチェーン
    https://www.microsoft.com/ja-jp/mscorp/msp/responsibility.aspx

これらの企業は、それぞれが直面する異なる課題に対応するためにマテリアリティを活用しています。各企業のマテリアリティはその業界の特性、ステークホルダーの期待、そして自社のビジネスモデルにより形成されます。

まとめ

マテリアリティは、企業が直面する課題を特定し、機会を理解することで、それらに対応する戦略を立てるための重要なツールです。それは企業がリソースをどのように配分し、どのような価値観を持つべきかを示し、ステークホルダーとの関係を強化します。マテリアリティを適切に活用することで、企業は持続可能な成長を達成し、長期的なビジネスの成功を実現できるでしょう。

本コラムを通じて、マテリアリティの概念とその活用方法について理解を深めていただけたことと思います。企業はこのマテリアリティの理解を基に、自身のビジネスモデルや戦略を見直し、社会的・環境的課題への取り組みを強化していくことが求められます。パリ協定やSDGsなど、社会的課題の解決に向けた枠組みが急速に整備されており、それに伴い企業に求められるものも変化してきています。今後は、企業の評価に非財務情報がより影響する時代となっていくでしょう。そういった時代変容をいち早く捉え、企業はビジネスを推進しいていくことが重要です。