2023.08.15

自社のKPIに環境指標を取り入れよう!
サステナビリティの観点を取り入れたKPI設計をすることの重要性とは?企業事例を踏まえながら解説

はじめに

サステナビリティ、すなわち持続可能性は、21世紀のビジネスの中心的なテーマとなっています。企業が社会的・環境的課題にどのように対応し、それを戦略的に取り組むかは、企業の競争力、成長性、そして生存に大きな影響を及ぼします。しかし、その取り組みは組織内部の戦略やパフォーマンス指標に明確に反映されているでしょうか?企業のパフォーマンスを評価するための基本的な道具であるKPI(Key Performance Indicator)は、財務的な指標が主体となっています。しかし、今日の世界ではそれだけでは不十分です。サステナビリティの視点を組み込むことで、KPIはさらに包括的で効果的なパフォーマンス評価ツールとなります。マテリアリティについては、万国共通プロセスを通じて特定できます。しかし、KPI設定は、同業種であっても企業によって異なるため、ゼロから作る必要があります。戦略から一歩進んだ「実効性のあるKPI」をどう決めるか、が重要になってきます。企業のサステナビリティ推進活動が重要視される中、従来のようなKPIを当てはめていては、価値創造との整合性が取れません。本コラムではサステナビリティの観点を取り入れたKPIを設計することが、いかにビジネスにおいて重要かを解説します。

サステナビリティのKPI導入の意義

サステナビリティ視点を踏まえたKPIを導入することで、企業は長期的な視野を持つことが可能になります。長期的な成功を追求することは、企業がその存在価値を維持し、持続可能な成長を達成するために重要です。また、気候変動や社会的不平等などの問題に対する企業のリスク管理能力が高まります。これらの問題は企業にとって重大なリスクをもたらします。そのリスクを適切に管理することが企業の生存に直結するのです。 さらに、消費者や投資家など、企業と関わりの深いステークホルダーとの関係を強化することができます。ステークホルダーが企業のサステナビリティへの取り組みを高く評価することで、その結果として企業価値が向上します。企業がサステナビリティ視点を踏まえたKPIを導入することには、上記に述べたような様々な意義があるのです。

<まとめ> 1. 長期的視点の確保:経済的なパフォーマンスは短期的な成功を反映しますが、サステナビリティKPIは長期的な視点を提供します。環境、社会、ガバナンス(ESG)のリスクや機会を適切に理解し管理することで、企業は長期的な生存性と競争力を確保できます。

2. リスク管理:気候変動や社会的不平等などの問題は企業にとって重大なリスクをもたらします。これらのリスクを把握し、それに対処する戦略を立てることは、企業のリスク管理において不可欠です。

3. ステークホルダーとの関係強化:消費者、投資家、従業員をはじめとするステークホルダーたちは、企業が持続可能性に取り組むことを求めています。その取り組みは企業価値を高め、ブランドイメージを強化し、ビジネスパートナーや従業員の信頼を深めることにつながります。

サステナビリティのKPI設計のヒント

サステナビリティKPIを設計する際の重要なポイントは、ビジネス戦略との統合、SMARTなKPIの設定、そしてステークホルダーの参画です。 サステナビリティの視点をビジネス戦略に統合することで、サステナビリティが組織全体の行動と意思決定に反映されます。 また、SMARTなKPIを設定することで、その達成状況を具体的に評価し、必要な改善策を明確にすることが可能となります。 さらに、ステークホルダーをKPI設計のプロセスに参画させることで、彼らの視点とニーズを反映したKPIを設定することができます。 それぞれについて詳しく解説します。

  1. ビジネス戦略との統合
  2. サステナビリティのKPIを設計する最初のステップは、それをビジネス戦略と統合することです。これは、サステナビリティが組織全体の行動と意思決定に反映されるようにするためです。これを行うためには、組織のビジョンや目標、戦略的優先順位などとサステナビリティ目標を連携させ、それらが一致するようにする必要があります。例えば、もし企業が気候変動に対する取り組みを強化することを戦略的な優先事項としているなら、それに関連するサステナビリティKPI(例えば、CO2排出量の削減)を設定することが有効でしょう。

  3. SMARTなKPIの設定
  4. KPIを設定する際には、それがSMART(Specific、Measurable、Achievable、Relevant、Time-bound)であることが重要です。これは、目標が具体的(Specific)であり、測定可能(Measurable)であること、達成可能(Achievable)であり、関連性(Relevant)があり、時間(Time-bound)を設定していることを意味します。これにより、KPIの進捗を定期的に評価し、必要に応じて改善策を講じることが可能になります。このアプローチは、サステナビリティKPIを設計する際にも留意しておく必要があります。

  5. ステークホルダーの参画
  6. サステナビリティのKPI設計には、ステークホルダーの意見を取り入れることが有効です。ステークホルダーとは、企業と関係の深い人々や組織のことで、顧客、従業員、投資家、地域社会などが該当します。ステークホルダーの視点を反映したKPIを設定することで、企業はその活動がステークホルダーのニーズや期待に応えているかを確認することができます。これは、企業が社会的な信頼を維持し、持続可能な成長を達成する上で重要な要素です。

これらの要素を考慮しながらサステナビリティのKPIを設計することで、企業はそのサステナビリティの取り組みを効果的に管理し、改善することが可能になります。また、それにより企業はその活動が環境や社会に対して持続可能であることを証明することができます。

企業事例

サステナビリティの視点をうまく取り入れたKPIを設計しているいくつかの企業事例を紹介します。

  1. ユニリーバ
  2. 世界をリードする消費財企業であるユニリーバは、2010年に「サステナブル・リビング・プラン」を発表しました。このプランでは、サステナビリティの視点を企業の中心的な戦略に取り入れるとともに、それをKPIとして明示的に設定しています。特に、2020年までに環境足跡を半分に減らす、農産物の100%を持続可能な源泉から調達する、生活の質を向上させるなどの具体的な目標が設定されています。ユニリーバはこれらのKPIを定期的に公開し、進捗を評価しています。
    参考:https://www.unilever.co.jp/planet-and-society/

  3. シーメンス
  4. ドイツの技術会社であるシーメンスは、サステナビリティの視点を組織全体のKPIに組み込んでいます。例えば、2025年までにCO2排出量をネットゼロにするという野心的な目標を設定しています。この目標達成のために、シーメンスは再生可能エネルギーの使用を増やす、エネルギー効率を改善する、電気自動車の使用を増やすなどの取り組みを行っています。これらの取り組みはKPIとして設定され、その達成状況が定期的に報告されています。
    参考:https://www.siemens.com/jp/ja/company/sustainability/sustainability-figures.html

  5. パタゴニア
  6. アウトドア衣料品のパタゴニアは、製品のライフサイクル全体にわたる環境影響を評価し、それをKPIとして設定しています。パタゴニアは、「フットプリント・クロニクル」と呼ばれるオンラインツールを通じて、その製品が原材料の調達から製造、配送、使用、廃棄に至るまでの各段階でどの程度の環境影響を生じるかを公開しています。これにより、パタゴニアは自社の製品が環境に与える影響を明確に理解し、それを改善するための具体的な目標を設定することができます。
    参考:https://www.patagonia.jp/social-responsibility/

以上の3つの企業は、それぞれ異なるアプローチでサステナビリティの視点をKPIに組み込んでいますが、それぞれが自社のビジネスモデルとサステナビリティ目標をうまく統合し、その達成状況を定期的に評価しています。これらの事例は、他の企業がサステナビリティのKPIを設計する際の参考になるでしょう。

まとめ

サステナビリティの視点を企業のKPI設計に組み込む重要性、そして、その適用方法についての具体的なアイデアと企業の成功事例を紹介しました。これらは、企業が社会的、環境的な責任を果たすとともに、ビジネスの成功を追求するための非常に重要なステップです。ビジネス戦略とサステナビリティの目標を統合し、SMARTなKPIを設定し、そしてステークホルダーの参画を求めることは、組織がサステナビリティを真剣に追求する上で欠かすことのできない要素です。紹介した企業事例は、これらの原則を実践し、サステナビリティをコアビジネスの一部に組み込むことで、その競争力を向上させ、社会的な信頼を得ています。サステナビリティは単なるトレンドではなく、新しいビジネスの規範であり、企業が真の長期的成功を追求するための必須の要素です。それを組織全体のKPIに組み込むことで、企業はビジネスの持続可能性を高め、環境と社会に対するポジティブな影響を最大化することができます。

サステナビリティの視点を組み込んだKPI設計が、企業の未来を築く上での重要な役割を果たすことは間違いありません。組織が未来を見据え、自身の影響力を最大化するためには、その取り組みと進歩を明確に示すKPIが不可欠です。サステナビリティを組織の心臓部に位置づけ、戦略、策定、そして評価の中心に据えることで、企業はより良い未来への道を切り開くことができるのです。 その設定は必ずしも容易ではありません。具体的な指標を設定するためには、企業は自身のビジネスモデルや戦略、リスク管理、ステークホルダーとの関係など、様々な要素を考慮しなければなりません。 本コラムを通じて、企業のKPI設計におけるサステナビリティの重要性が理解できたと思います。設計のヒントや企業事例を参考に、各企業が有効性のあるKPI指標を設計し、活用して未来へと突き進むための道筋となれば幸いです。