2022.05.12

エコシステムの中で共存していくためには

「エコシステム」という言葉が生物界だけでなく、ビジネス界でも一般用語になっています。当社が担当しているクライアント様からも、“製品開発”や“プラットフォーム運営”をしている企業がどういう体制・スキルをもって他社と業務をしているかを知り、今後の推進体制検討したい、といった声が見受けられています。

今回は今後エコシステムの中で共存していくために、会社としてどんなところを強化していく必要があるのか、世の中の動きを紹介しつつ考えていきたいと思います。

みなさまご存じの通り、もともとエコシステムは生物界で使われる言葉で、“生態系”という意味を持っています。生態系とは、ある生物が生きている領域内に存在する他の生物や水、空気などの環境が相互に影響しあいながら絶妙なバランスを形成している循環系のことをいいます。
この生態系の中に存在するもの一つ一つに役割があり、そのどれか一つでも欠けてしまうと生態系が崩れ、最悪の場合は生物が絶滅に追い込まれる場合もあるでしょう。

エコシステムの浸透と価値の変化
1990年代頃からエコシステムの考え方が徐々にビジネス界でも浸透し始め、昨今では業界の壁はなくなり、業界の境界線というものは、もはやないと言っても良いくらいではないでしょうか。

エコシステムの登場以前は生産からサービスの提供まで同じグループ企業間でまかなっていることが多く、いわゆる業界1位という考え方が存在していました。
しかしエコシステムの登場により、全てのサービスを同じ企業間内でまかなうことが逆に企業としての価値を停滞、さらには減退をもさせてしまう可能性が出てきています。

またサービスの価値というものが単にモノの価値ではなく、モノを通したコトへ拡大していることも影響として考えられます。ユーザーにとって、モノ自体に価値を見出すことよりも、そのモノを通してどんなコトができるのか(=どんな体験ができるのか)が重要になっているということです。

エコシステムの構築にあたって
それではエコシステムを形成している企業はお互いにどのような関係を築いているのでしょうか。
企業のポジションとしては2つ考えられます。1つはそのエコシステムの土台となるプラットフォームを提供する立場、もう1つは既存のエコシステムに参入する立場です。

前者のポジションに注目すると、プラットフォーマーとしては大きなところでGoogleやAmazonなどが例として挙げられます。日本でも多くの企業がプラットフォーマーとしてエコシステムを形成しており、暮らし・家電のプラットフォーマーでいうとSHARPやPanasonic、モビリティサービスのプラットフォーマーでいうとTOYOTAなどが挙げられます。

暮らし・家電のプラットフォームではTVやエアコン、洗濯機などのIoT家電はもちろん、セキュリティサービスや見守りサービスなどを提供する企業ともエコシステムを形成して、ユーザーにとって“暮らし体験”を提供しています。
モビリティサービスのプラットフォームでは目的地までの経路検索をベースに、シェアリングエコノミーの考え方から、自動車、自転車などのシェアリング情報、タクシーの手配、旅行先の観光情報に至るまで、各種サービスを提供する企業と連携し、ユーザーにとっての“移動体験”を提供しています。

プラットフォームを提供する立場、参入する立場両者とも自社が提供するサービスの枠組みにとらわれず、業界の枠を超えてユーザーにとっての価値ある体験を具現化しています。また連携する企業同士もお互いにWin-Winの関係であることが求められ、それぞれのサービスや未来像を見極めてシナジーが生まれる関係を築いています。

またエコシステムを形成するにあたってプラットフォーマー側は社内の推進体制を積極的に強化している傾向にあります。
例えば基盤であるプラットフォームは自社該当部署を分社化する、または連携企業と共同で構築することで、様々な企業と幅広くスピーディーに連携しやすい体制を築いています。また一方でそこで得られたデータやノウハウを厳重に管理することも求められるため、知的財産を管理する部署を強化している傾向にあります。

エコシステムの中で共存していく
生物界において、ある生態系に存在する生物は自分の役割をしっかりと認識し、自分を取り巻くあらゆる環境と共存を図っています。生態系の安定性に寄与する要因としては種の多様性はもちろん、各生物種がその場その場の状況に併せてより利用価値の高い餌を利用する“適応能力と柔軟性”が重要であるとされています。

ビジネス界のエコシステムにおいても同様のことが求められ、自社と連携企業がお互いのノウハウを融合することで自社単独では生まれなかった新たな価値の創造につながります。また業界を超えてさまざまな種の企業が共にエコシステムを形成することで、安定性と利用価値の高いサービスをユーザーへ提供することに成功しています。

日本ではまだまだGDPの7割以上をグループ企業で占めている現状から、業界を超えたイノベーションを積極的に行っているとは言えないものの、これからのビジネス環境の変化に対応していくためにはスピーディーな市場価値の変化に対応できる市場構造を自ら積極的に構築していく必要がありそうです。

構築という大きなくくりでなくとも、エコシステムはどの企業にとっても身近な存在となります。自社がエコシステムの構築に関わらなくても、参入を決定する機会もまたあると思います。さまざま要素が絡む巨大な生態系であるため、意思決定自体が企業の動向も左右するでしょう。

こうした意思決定の支援に関わる機会のある弊社だからこそ、私も引き続きエコシステムの理解を高めていきたいと思います。

記事を書いた人

今江 亜利沙