これまでDXのプロジェクト推進を行う立場から、ノーコードツールをトリガーにした、全体最適と個別最適をうまくミックスさせたDX推進や、DXの“巨大な絵”と現実の乖離を埋める役割について述べてきました。
今回は少し見方を変えて、それを実現するために必要な人材やスキルのことについて述べたいと思います。
どこのお客様でも一様におっしゃるのが、「DX人材がいない」という嘆きです。
“トランスフォーメーション”という見えない世界を描くことや、最新のテクノロジを取り込むこと、集まったデータの分析など、さまざまな高度なスキルが必要とされるため、「現代の最難関採用職種」といっても過言ではないでしょう。
真っ向からDXに臨むとなると、そういったスキル・人材の確保が急務ということになりますが、本コラムで述べている領域では、少し必要スキルの軸足が変わってきます。
私たちコンサルティング会社の現場の実務のなかで実際に起こっていることや、私たち自身がノーコードツールを扱う立場から、「やはりこういうスキルが必要だな」と感じていることを、順を追って見ていきたいと思います。
より求められるユーザー視点
「誰でも作れる」は逆に作り手によってかなりばらつきが出るということです。
コードをさわらないとなると、使うのは直で画面となり、つまりユーザー体験を形にすることがこの仕事の主役となります。
当社の経験でも、「この項目は入れる情報がこのくらいあるのに、なぜこの位置?この幅?」といったことがしばしば起こりました。
もはや画面を作りながら要件を形にするという仕事なので、UXのセンスがないとまず話にならないと言っていいと思います。
そのために、いかに使用者になりきって業務を想像できるか、同じ気持ちになれるか、ここが重要です。
実は自由度が高いツールならではの要素です。形にするのはユーザーのことも業務のこともわかる人であるべきです。
時空を先読みできるアジャイル思想
簡単に作れるがゆえに、まずは作ってみてそこから、というアプローチが基本となります。全体の設計図や仕様書は基本的には二の次、もしくは作りません。
まずは形にできるという能力は大事です。「素晴らしいものを目指してずっと考えていました、しかし出来上がるのは1年先です」ということではトランスフォーメーションは待ってくれません。
まずは小さくても形にして、使ってみてフィードバックを受けて進化させていく。こういった、いわばアジャイル的な仕事のアプローチに長けた人が適します。
一方で、小さな成功がたくさん増えてもDX加速という目的の達成に繋がらない可能性もあります。そこを見失わないことが重要です。
最終的に目指しているところがどういう状態か?あるいは、目先で行ったことがどういう影響があるか?を把握するという「時間軸のなかでの今行っていることの把握」は必須です。
また、全体としてDXの一環であることやビジネス改革のために簡易なツールを使っているということをよく理解し、「空間的に大きな取組みのなかのどの部分を行っているかを理解する」というビジネスセンスは必要です。
システムを作るということについての理解・経験
ノーコードのしくみがこれから業務システムの主流になっていきそうな勢いですが、ひとつだけ大前提を置かせていただくと、やはりシステム開発経験はあった方が、もの作りの作法を習得しているという意味では間違いなくよいです。
どうしても作りの問題は出てきます。やりたいことをやろうとしたときに、今の作りでは限界がある、といったことや影響範囲に気づくことや、実際に使ってみるまえにテストとしてどの程度のことをすればいいのか、など、開発経験者ならではの仕事はやはり必要です。
また、難しいコードは使わないにせよ、システムなので「全体としてこういう思想で作られていて、基本的な作法はこうなっている」という理解がすぐにできるというのも様々なシステムを見てきた人ならではのことです。
開発者がたくさんいるといい、というわけではなく、安心して業務に役立つものを作っていくには、開発者の知見は必要だということは理解しておいた方がよいと思います。
必要スキルの変化に対する覚悟を
ざっと挙げると必要スキルは以上のようなことになりますが、何かに似ていると感じた方もおられるのではないでしょうか? 世の中にSaaSのしくみが登場したときも、殆ど同じような話が出ていたと思います。たしかSalesforceも初めはこういうトーンでした。
ところが今やSaaSの走りだったツール群も、立派なシステム開発の対象となり、専門の会社が行う世界です。
これはひとつのサイクルなのかもしれません。簡易なツールということで市場を作りだし、さらに高度なことをやりたいという要求が生まれ、そのために高度なシステム連携や難しいシステムを作っていく。
今私たちは、また訪れてきたそういったサイクルのなかにいると捉えるべきなのかもしれません。それも見越して、より幅広く必要スキルがどう変わっていくかを追いかけていくことで、常に最適な人材をしかるべきところから調達・確保でき、自社なりのDXを進めていくことが可能になるといえるのではないでしょうか。
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