CO2削減への取組みが受注継続に影響する時代へ
「2022年、注目すべき経営課題は何か?」と問われると、やはり「SDGs」といわれるサステナブル経営や、「GX(グリーントランスフォーメーション)」といわれる、カーボンニュートラル経営を挙げる方も多いのではないでしょうか?
地球温暖化やそれを引き起こす環境破壊は人類共通の課題であり、個人・企業問わず皆が受け止めて、それぞれで努力をしていかなければならない最重要テーマです。それが、日常生活だけでなく、企業が取り組むテーマとしての注目度も一気に高まってきました。
営業やマーケティング関連のコンサルティングを行っている当社からみても、各方面から「取引先を意識したCO2削減への対応」の話が聞こえてきており、この問題が徐々に仕事の現場に表出してきている印象を持っています。
企業を相手としているB2B企業の営業部門は、取引先企業によっては遅かれ早かれCO2削減目標の達成要望が出てきて、それに応じないとサプライヤーとして存在し続けることすら難しくなってきます。
たとえば、その先端をいくのは世界的にはGAFAMですが、特にアップル社が、2030年までにサプライチェーン全体のカーボンニュートラル実現を掲げ、サプライヤーにも要請・支援を行っているのは有名な話です。
日本でも、トヨタはじめ自動車各社や、積水ハウス、セイコーエプソン、東レ、ダイキン工業など、軒並み大手製造業でそういった動きがみられます。
さて、そのような動きのなか、サプライヤーである企業各社はどういった考えで向き合えばよいのでしょうか?
営業面ではリスクとチャンス
「取引への影響」という観点からいうと、リスクの側面が強く見られますが、「選別の基準が変わる」という見方をすると、これはリスクでもありチャンスでもあります。
取引先見直しの可能性があるなかで、従来のサプライヤーが目標を達成できない場合、そこからの調達が難しくなり、一方でこれまで声がかかっていなかった取引先の商品・サービスの採用に動く場合も考えられます。
取引先企業からの要請が予想される業界においては、リスクとチャンスの両面を客観的にとらえて、打ち手を考えていくことが求められます。ただいずれにせよ、取引先の要請のレベルにあったカーボンニュートラル対応は行われていなければなりません。
‟営業ネガティブスクリーニング”回避のために
一般的には、こういった要請への対策として、全社的取組みが必要となります。昨今は大手企業を中心に、専門の部門を設置して、継続的なCO2排出量測定を行うとともに、各部門への教育や徹底を促すことも珍しくはなくなってきています。
会社全体としてのKPIをCO2削減を軸としたものに組み立て直すケースや、バリューチェーンのなかでそれぞれの機能部門、商品開発、製造、物流などで施策を講じるようになってきています。
このような動きのなか、対顧客の最先端である営業機能ではどういうスタンスでいるべきでしょうか?
元来、営業は顧客に対して「QCD」という観点で提案活動をしてきており、今でもそれらがビジネスの主役です。そこにもうひとつ、「環境(EでもGでも構いません)」が加わります。その結果、例えば、「エネルギー抑制の観点で物流方法を変えるので、納期が倍かかります」という話などをしなければいけなくなりますが、理屈では分かっていてもなかなか難しい話です。
実際に商談等において「土俵にのる」ことができないと話になりませんし、それが近い将来の大きな営業リスクになることは明らかです。この土俵に乗れないことは、「ネガティブスクリーニング」という言い方をされます。今のうちからそういった事態に備えて、顧客接点である営業も含めた対策が必要となってきます。
営業部門は自社のCO2削減への取組みを語れるように
自身の担当するお客様からCO2削減要請の話が出てきたときに、自社の取組みを語れる状態にしておくことは、これから必須になってくるでしょう。さらにいうと「自分ごととして、自らがかかわる取組みをどこまで語れるか?」このあたりも実務をうまく進めるにあたっては問われるところだと思います。
そういった観点から、営業部門のCO2削減への取組みをざっと挙げてみましょう。最近の例として、
・製薬会社における、リモート面談での医療情報提供
・食品製造業における、ハイブリッド車、軽自動車への移行と、エコドライブ教育
・家電メーカーにおける、ショールームのオンライン化と勤務者の5割の在宅化
etc.
こういったことがすでに行われています。売上や受注の追及だけでなく、CO2削減も目的として位置づけ、各種の取組みが始まっています。
コロナ禍でのテレワーク普及も追い風になっています。営業ももはやリモートの時代です。ある調査によると、在宅により自宅での燃料消費量の増加はあるものの、通勤をなくすことによる減少分は、増加分と比較して約4倍の節約量があるともいわれています。
身近な試算もしてみるとよいでしょう。例えば、通勤によって排出されるCO2を日ごろから気にするだけでもだいぶ意識が違ってきます。
筆者自身の試算でも、仮に30㎞の通勤距離の場合、自家用車での通勤1回につき約13.9㎏、バスに乗った場合で15.2㎏(人数で按分できる)程度のCO2が排出されます。これが週半分のリモートワークになることでどの程度削減に繋げられるか、比較的簡易に試算ができます。
そういった数字の積み重ねを客観的かつ具体的に提示・説明できることが、顧客に対する顔である営業の重要な使命となってくるのではないでしょうか。
「リモート営業」は、やはり切り札のひとつ
カーボンニュートラルに関連する取組みのひとつが「DX推進」です。そういった文脈に位置づくものとして、販売に携わる人たちの業務のDX化は含まれますし、リモート化もそのひとつです。
いわゆる「デジタルマーケティング」も、対面ではない状態でお客様とのつながりを維持して、気持ちの変化に応じたアプローチを講じる施策ですが、これが単なる効率化の手段ではなく、これからは「取引維持のためのCO2削減対応の一環にもなる」ということが言えます。
商談のやりとりにおいて、若干の不便さが残るかもしれませんが、カーボンニュートラルを要請する企業側からしても、それが自社の目標達成に繋がるのであれば、リモートでの営業スタイルも歓迎される可能性も十分考えられます。
ますます対面での営業は、「本当にここは面と向かってでないと価値が出せない」という絞り込んだ部分に特化されていくことでしょう。これはオンライン/オフライン含めた営業プロセス改革そのものです。
まずはリスクとコストの測定を
前述の営業部門でのCO2削減対策の多くは、対応自体には費用がかかるものが多く見受けられます(例えば車両をハイブリッド車に置き換えるなど・・・)。しかしこれはそれをやらないことに伴う取引逸失を考えると、避けられない「取引維持コスト」となります。
・コスト:CO2削減に向けての取組みによって生じる新たなコスト
・リスク回避効果:「これをしなければ失う可能性がある収益」
(取引先からの発注減、環境対応の遅れにともなうイメージダウンの影響etc.)
通常は「費用対効果」という言い方をしますが、ここではリスク回避効果としての測定がまず必要です。「そもそもビジネスインパクトとしてどうなのか?」を把握しないと、いつどこまで費用をかけるべきか判断がつかないはずです。
一見増えてしまいそうなコストを、いかにして抑制するか。そこまで意識をして、取引の維持を実現するのが、これからの営業戦略にとって重要な要素になってきそうです。
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以上、昨今のカーボンニュートラル対応の観点から、これからの営業のあり方を述べました。こういった外部環境を見据えながら、従来の枠にとらわれず、よりよい解決策を企業の皆さんと考えていきたいと思っています。
目の前のお客様の成功は最も大事なことですが、さらにその先、「お客様自身のカーボンニュートラル対応を通じた環境問題解決」を意識して、それがこれからの我々コンサルティング業の使命だと捉え、思いをもって日々の課題解決に臨んでいきたいと思います。