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顧客体験全盛期の今だからこそ求められる、自社ECならではのショッピング体験

「ECサイトを立ち上げるべきか、モールに出店するべきか。」

そんな葛藤を経験した人も多いのではないでしょうか。

COVID-19の蔓延に伴い対面でのサービス提供が困難になる中で、多くの企業でオンラインでの販売手段を急速に整備してきたと思います。時間も人も資金も、あらゆるリソースが限られる中で、迅速な判断を迫られてきたのではないでしょうか。

未だ、人の流動が制限される状況は続いていますが、段階的なワクチンの接種も始まっています。厚生労働省の発表では、接種期間は来年の2月までと予定*1されており('21年6月現在)、現在のような蔓延状況は次第に落ち着いてくるとみられます。また、今年の11月までには希望者全員への接種の完了を目指すとの報道もあります。

各企業においては、対面でのサービス提供を段階的に再開する準備が進んでいることと思います。その中でも、忘れてはならないことは「顧客はオンラインでのやり取りの利便性を手放すことはできない」ということです。

*1 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00218.html

多様化したデジタルタッチポイントにおける顧客体験

スマホやSNSの普及に伴い、デジタルデバイスを通して提供される様々なサービスは人々の生活に深く浸透しています。昨今では、検討から購入までの一連の購買プロセスを、手持ちのスマートフォンで済ませるようなケースも一般的になってきています。このような状況は以前から見られており、こうした消費者ニーズにいち早く応えている企業もあります。

オンライン上でのビジネスを成功させている企業は、単にオンライン上に販売チャネルを用意しているだけではありません。複数の顧客接点におけるやり取りなどの情報を統合管理し、良質な顧客体験を提供するための基盤を整えています。多くの顧客がオンラン上での上質な体験を経験している今、対面でのサービス提供が可能になったとしても、オンラインでのサービス提供を止めるという選択肢はあり得ないのです。

 

さて、少し想像してみてください。

 あなたは今、京都に旅行に来ています。大通りのツツジは満開で、ピンク色や白い色の花でいっぱいです。細い路地は建物の影になっていて、入ると少し肌寒さを感じます。通りには、店内が見えない料理店が並んでいます。時々自転車とすれ違いながら進んでいると、ふと、素敵な鞄のお店が目に留まりました。

 店の前にある大きな看板には、新作の鞄のPR写真が載っています。大きめの革鞄を背負ったモデルが太陽を見上げている写真です。明るい太陽の光と鞄のシックな色合いのコントラストが、とてもきれいに思えました。写真の鞄が気になったので店内に入ってみることにします。

 一通り見てまわりましたが、残念なことに店頭には置いてありませんでした。店員さんに聞いてみると、実はこのお店は東京にも出店していて、東京のお店には在庫があるというのです。店員さんはあなたの好みを丁寧にヒアリングして、似ている製品を勧めてくれました。どれもいい製品だとは思いましたが、やはりあの写真の鞄が欲しいと思いました。あなたは、勧められるままモバイルアプリをインストールし、会員登録をしからて退店しました。

 しばらくはアプリケーションを入れたことも忘れて過ごしていましたが、東京に戻ったある時、旅先で見た鞄がポップアップでおすすめされました。

 ふと入ってみると、モデルが街で鞄を使っている様子や、質感、お手入れの方法が載っていていました。欲しいという気持ちが再び蘇ってきました。

「今度あの場所にいく時に使いたい。」

 おしゃれな鞄を持ってお気に入りの場所に出かけるシーンを想像すると、わくわくしてきました。ただ、少し値段が高いことが気になりました。また、イメージ通りのものが届くかということも不安でした。少しスクロールすると、ちょうど店舗の案内がありました。たまに買い物に行くモールの近くにあるようなので、今度のお買い物の時に寄ろうと決めました。

 数日後、お店に立ち寄ると、鞄だけでなくいろいろな商品が置いてありました。店内をひととおり見て、シックな財布やキーケースも欲しくなりました。しかし、今回は最初に欲しいと思った鞄をだけを買うことにしました。店員さんはとても丁寧に商品の説明をしてくれました。購入時には、お手入れ方法や保管方法などをレクチャーしてくれました。

 家に帰ってから改めて見てみると、作りもしっかりしていて買ってよかったと思いました。スマホで見たときのイメージとも変わりありません。お出かけの時に使うようになりました。少し高い買い物でしたが、とても満足です。

 しばらくすると、スマホの画面に「革製品のお手入れ方法」というポップアップが表示されました。そういえばそろそろ、最初のお手入れの時期になります。

 

ある人と鞄屋さんとの出会いの瞬間でした。いかがでしょうか。このような顧客体験を実現するには、どこから始めればいいのでしょうか。

この例では、少なくとも店舗スマートフォンの2つのチャネルにおいて、顧客の反応がそれぞれ記録されています。そして、これらの記録に基いてパーソナライズされたコミュニケーションが、チャネルを横断して実施されています。

理想的な顧客体験を実現するための道筋

もっとも、単に「顧客行動の把握」「パーソナライズされたコミュニケーション」「チャネル横断的なコミュニケーション」と言っても、実現するのは容易ではありません。

まずは、理想的な顧客体験とは何か、という課題設定が必要になるでしょう。ロイヤルティの高い顧客の獲得するためには、どのような顧客体験を提供する必要があるのでしょうか。業態や商材、企業のカラーや顧客との関係性を踏まえて、顧客の状態やチャネルごとに最もエンゲージメントを高めるような体験を緻密に設計していく必要があります。

さらに実務的には、各チャネルにおけるコミュニケーションを実現するための手段や、顧客情報を取得し組み合わせるシステムの構築が必要になります。また、技術的な環境の整備だけでなく、日々変化する顧客や市場の動きに合わせて施策を評価し、継続的にアップデートするための人的資源や業務の整備が必要になります。

チャネルを横断して理想的な顧客体験を提供するために必要なこと

チャネルを横断して理想的な顧客体験を提供するためには、一般的に以下のようなことが必要になります。

  1. 提供すべき顧客体験の設計
  2. 必要なマーケティングチャネルの洗い出し
  3. チャネルごとのコミュニケーション手段の構築
  4. チャネルごとの顧客行動データの取得手段の構築
  5. 複数チャネルのデータ統合環境の整備
  6. キャンペーン結果の測定指標の検討
  7. キャンペーンの実施とアップデート

ECサイトの立ち上げかモール出店か

実務を行うために必要な手段は各種ツールのマニュアルや別の記事に任せるとして、本稿では、通信販売を立ち上げる際に考慮すべきことは何か、ということを考察したいと思います。

 

「ECサイトを立ち上げるべきか、モールへ出店するべきか。」

 

改めて冒頭の課題を考えてみましょう。ECサイトを立ち上げることとモールへ出店することを比較すると、一般的には表1のようなメリットとデメリットがあります。

 

表1.ECサイトの立ち上げとモール出店の比較

表1.ECサイトの立ち上げとモール出店の比較

 

パーソナライズされた顧客体験を提供することの重要性は先述のとおりです。すなわち、現在普及しているモール上では柔軟性のあるデータ活用が実現できない以上、ECサイトの立ち上げかモールへの出店かの2択のうち一方を選ぶという課題設定自体に問題があると言えるでしょう。経営状況や顧客層び影響で時期の前後はあるとしても、いずれはECサイトの立ち上げが必須になります。モールへの出店は、チャネルの一つとして必要があれば、並行して実施することが理想的であると考えられます。

ECサイトを立ち上げる

ECサイトを構築するためのサービスやソフトウェアは、現在、多くの企業やコミュニティから展開されています。提供形態は大きく分けて、フルスクラッチ開発、パッケージ(クラウド/スクラッチ)、APSカートの3種類があります。日本やグローバルで利用できるサービスやソフトウェアは、パッケージで提供されているものだけでも20種類以上の選択肢があります。それぞれ一長一短の特長があるため、自社の特性に合わせて適切な技術選定を行う必要があります。

それでは、何を基準に利用サービスやソフトウェアを選択すればいいのでしょうか。年商規模や扱う商材、対象となる市場等に応じて、それぞれ重要視する条件は異なってくるでしょう。

例えば、年商規模が小さい場合には導入や運用にかかる費用が抑えられるシステムを選択することとなるとケースが多いでしょう。また、非常に高いセキュリティ要件が求められるケースでは、オンプレミスで構築できるシステムが必須になるケースもあると考えられます。流動性の高い市場においては、迅速なコンテンツ開発を促す基盤を有している必要があり、国際市場に対応するためには複数言語の取り扱いや各国の法律に対応できる柔軟性が必須となります。

しかしながら、いずれのケースにおいても、理想的な顧客体験の提供を同時に実現する必要があります。

では、理想的な顧客体験を実現するための機能とは何でしょうか。理想的な顧客体験を実現するためには、「統一性」と「パーソナライズ性」が重要となってきます。つまり、フィジカルとデジタルの両面に存在する複数のデジタル接点において、顧客ひとりひとりの趣味趣向や意思決定の意図に沿った、シームレスで統一性のある体験の実現を検討する必要があります。

これらを実現するために、多くのパッケージで様々な機能が提供されています。例えば、ほとんどのパッケージでは、レスポンシブデザインへの対応などにより、複数のデバイスに統一的なコンテンツの提供しています。また、このように統一的なコンテンツ提供をすることで、それぞれのデバイスからの一元的な顧客情報の収集を可能にしています。しかしながら、レスポンシブデザインに対応するだけでは、多様化するデジタル接点のそれぞれに対応していくことは難しいでしょう。

統一性やパーソナライズ性の観点から重要になってくる機能には、以下のようなものがあげられます。

図1. 統一性やパーソナライズ性の観点から重要になるECに求められる機能

図1. 統一性やパーソナライズ性の観点から重要になるECに求められる機能

 

理想的な顧客体験を提供するためには、EC上での行動や購買状況とEC以外でのやり取りや顧客情報を組み合わせて、一元的に管理し利用できるような環境が必要になってきます。また、どのデバイスからのアクセスでも顧客個人にカスタマイズされたコンテンツ提供が求められます。

そのため、技術選定の際には、業務特性等に依存した必須条件を考慮するだけでは不十分です。提供すべき顧客体験が提供可能かどうかを、データ管理とコンテンツ管理の両面から検証する必要があります。また、より良い体験を提供し続けるためには、サイトを構築したら終わりではありません。EC以外でのコンテンツ提供を含めた施策を、常にアップデートしていく必要があります。

提供すべき顧客体験を明確に定義したうえで、デジタルでのタッチポイントの一つとして適切に機能するECサイトを構築すること、また、常に市場変化に対応した施策を実施し続けることは容易ではありません。それでも、デジタル接点における高度な顧客体験を実現するための技術は急速に広まっており、人々が求めるサービスレベルもだんだんと向上してきています。そのため、顧客体験を主軸においたサービス設計は必須となっています。

昨今の急速なデジタルシフトの中で、ECサイトに求められているのは販売ツールとしての機能だけではありません。一連の顧客体験の中で、販売・予約や情報提供を包含した「体験を提供する場」となることこそが、今のECサイトに求められているのです。

(執筆者:舘野愛実)