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D2C時代における顧客体験のありかた<後編>

本稿では、環境の変化に伴いD2Cが普及していく中で、どのように顧客体験を定義していくのかについて、D2C時代における顧客体験を設計する上で注目したいポイントを紹介します。前編では、環境の変化とともに変化する顧客の行動について、3つの消費行動モデルを紹介しました。後編では、理想の顧客体験とは何なのか、どのようにコントロールしていくかを考えます。

前回:D2C時代における顧客体験のありかた<前編>

 

D2Cへの取り組みで顧客体験をコントロールする

さて、2020年には、COVID-19の感染拡大という不測の事態に伴い、顧客の購買行動に大きな変革がもたらされると同時に、平時のデジタル化へ対応とは比較にならない速度で企業の技術利用が進みました。EC市場はB2B/B2Cのいずれにおいても急速に拡大していますが、大手メーカーによるD2C(※)サイトの立ち上げや、ブランドサイトとECサイトの統合などの動きも活発になっています。D2Cでは、メーカーが顧客に直接販売するため、流通から販売までの購買プロセスが管理でき、一連の顧客体験を直接設計し実現することが可能になります。

また、D2Cと一般流通とを組み合わせることで、顧客ひとりひとりのニーズに合ったチャネルでの顧客体験の提供が可能になります。「店舗で他の商品とまとめて購入したい、比較して購入したい」や「実物を手に取って確認したい」といったニーズを取りこぼさないために、小売りでの販売を維持する必要のあるケースも考えられます。また、特に流通が確立している商品では、自社で在庫を抱えることが大きな課題になる場合は多いでしょう。そういった場合でも、小売業者を限定することで顧客体験を維持する取り組みも行われています。

既存のチャネルを持っている企業であっても、既存チャネルを維持しつつD2Cの販売チャネルを取り入れることでより上質な顧客体験を提供することが可能であり、このような取り組みを行っている企業もあります。D2Cへの取り組みは必須ではありませんが、顧客体験を検討する上で、D2Cの形態を議論の対象に含めて検討することは重要になってきています。

※D2Cは直販のマイクロビジネスのみを指すという向きもありますが、ここでは、事業規模を問わずメーカーがECまたはブランド店舗を通して顧客に直接販売するケースをD2Cと表現することとします。

D2Cにおける顧客体験を設計する

良質な顧客体験を提供することは、エンゲージメントやロイヤリティを向上させ、LTV(顧客生涯価値)に繋がります。さらに、前編で述べた通り、消費の傾向は所有することから利用することに変化してきています。商品そのものの価値だけでなく、購買に至る前から購買後に至るまでに提供されるサービスも含めて、商品に関わる一連の利用体験の重要性が一層増しています。

D2Cの場合においても、顧客体験を提供する場は、ECサイトや店舗での購入体験だけではなく、SNSやサービスサイトにおける日常での接点が重要になってきます。D2Cの価値は単に購買チャネルを用意し購買体験を提供することではありません。むしろ、直接販売することによって、一連の顧客体験をコントロール可能にすることがD2Cの真価といえるでしょう。小売りの現場においてしばしば発生する、ブランドを棄損するような割引や現場におけるスタッフの不誠実な対応等を防ぐだけでなく、日々提供しているサービスから得られる情報に基づいた付加価値を提供をできるようになるのです。

例えば、スポーツメーカーが、トレーニングのスマホアプリと連携してパーソナライズされた商品提案を行うとともに、専門店でひとりひとりのニーズに合わせて専門家が接客を行うサービスがあります。このように、普段の生活の中での体験と店舗での体験を組み合わせることは、顧客体験の理想的な形の一つと考えられます。

次節以降で、簡単に、顧客体験を設計する際に注目するポイントをご紹介します。ここでは、新規D2Cビジネスの立ち上げを考えるケースではなく、既存のプロダクトをD2Cにシフトしていくケースを考えます。

ユーザシナリオを描く

顧客体験を定義していくうえでまず初めに行うことは、顧客を理解し、ユーザシナリオを描くことであると考えられます。既存のプロダクトがある場合は、販売データやSNSでの反響、口コミに基づいて分析が可能でしょう。このとき、既存のあるいは既知の顧客接点だけに限定せず、顧客の生活スタイルや行動からシナリオを描く必要があります。そのうえで、リーチするチャネルを定義し、チャネルごとの役割や提供する体験を定義していきます。

例えば、最適なSNSはどれか、サイネージの利用はどうするか、マス向けの広告は必要か、など、プロダクトの性質に応じて顧客にリーチするチャネルは適切に選択する必要があります。また、オウンドメディアではどのような体験を提供し、それぞれのチャネルにおける体験をどう繋げていくかを深く検討する必要があります。

ただし、ユーザシナリオを描く以前に、顧客体験の軸がブレないようにすることが最も重要であると考えています。ブランドアイデンティティやコンセプトが明確になっていない場合は、これらを戦略的に定義することが急務になります。いつでも立ちかえることができる、提供価値を明確するような指針を持つことで、安定した評価基準を持てるようになり、一貫した価値を顧客に提供できるようになります。また、何より重要なことは、目指すべき明確な基準を持つことでスタッフ自身が安心して個々の施策を計画し、適切なKPIを設計して評価と改善のサイクルを実施していく事ができるようになることです。

実店舗立ち上げの検討

D2Cで特に重要になってくるのは、実店舗の立ち上げの検討です。ここでの実店舗の役割は物理的な販売拠点という意味ではありません。実店舗は、スタッフと顧客とのコミュニケーションや商品を使った新しい体験の提供、あるいは顧客同士のコミュニケーションを提供する場になります。現在では、ECやオンライン上で質の高い体験が得られることが当たり前になりつつあります。日常での買い物がオンライン上で完結できるようになる中で、オフラインでよりリッチな体験を提供できる実店舗の重要度が一層増しているのです。

実店舗では、オンラインだけではできない上質できめ細やかなサービスを提供することで、ロイヤリティを向上させブランドの世界観を表現し、ファンを魅了することが目的になります。オンライン上で提供可能なサービスを提供しつつ実店舗ではオンラインでは提供できない体験を提供することで、よりロイヤリティを高めLTVを高めることを目指します。例えば、先に挙げたスポーツ用品メーカーのように、ECではデータに基づくパーソナライズされたサービスの提案を行い、店舗では専門家による上質な体験を提供するような形態するような、オンライン上で得た情報に基づきよりリッチで貴重な体験をオフラインで提供することが理想的な姿と言えます。

実店舗を運営することは、ECを運営するよりも敷居が高いケースが多いと考えられます。しかしながら、実店舗で顧客体験を補強することは今後のD2Cビジネスにおいて要になってくると考えられます。

実現方法の検討

理想的な顧客体験を定義することができても、実現することは容易ではありません。D2Cへのシフトを検討する際には、データ管理、企画の体制、EC/ブランドショップの店舗運営、消費者向けの配送体制等を整えることなどが重要になってくるでしょう。

顧客体験を設計する上で、チャネルごとのシームレスな体験を提供することは重要な課題といえます。ECやオウンドメディア、実店舗などのあらゆる接点において、顧客から見た企業は同一のものであり、整合性のあるコミュニケーションを実現することは必須になってきます。このためには、データを一元的に管理・活用する必要があり、技術的な実現方法を整備する必要があります。さらに、課題は技術面だけではありません。あらゆる接点において整合性のあるコミュニケーションを実現するためには、マーケティング部や情報システム部門をはじめ企業の各部署を横断して協力する必要があります。特に組織が大きい場合には、部署横断的にプロジェクトを管理できる体制を整えることが非常に重要になってきます。

また、小売を通した販売活動が中心である場合、ECは未導入であるケースもあるかもしれません。この場合は、在庫管理や配送体制、EC上のコンテンツ、顧客対応等のコールセンター業務などECを運営するための業務を設計し体制を整える必要があります。

 

 

実務的には、まずは理想的な顧客体験を定義し、現実的に実現可能な範囲で段階的に始めていく事になると思います。ブランドアイデンティティに基づいたユーザーストーリーを描くこと、また、ユーザーストーリーに基づき顧客の期待値を超える体験を提供し続けられる体制や基準を整えることが最初のステップになります。それぞれの商材に応じて適切なチャネルを用意し、顧客が普段の生活の中でエンゲージを高めながら、ECや実店舗において統一的な体験を提供することが、顧客体験を考える上で重要になってくると考えています。

(執筆者:舘野愛実)