現場だからこそ分かるPMOの勘所

みなさんはプロジェクトの失敗というとどのような状態のことを言うでしょうか。

 

① 理想通りの成果物ができない状態のこと?
② 想定外のトラブルが多く、予定通りに作業が進まない状態のこと?
③ メンバー同士のコミュニケーション齟齬が多く、前に進まない状態のこと?・・・

 

「失敗」の定義は人それぞれですが、上記に示した状態は誰しもが経験することではないでしょうか。
これらの課題をコントロールし、プロジェクトを遂行していくのがPMO/PMの役割でもあります。

今回は現場でPMO/PMを経験している立場として、一般的なPMO/PMとしての役割と、実際の現場で求められる役割を比較しながら、その違いや理由を解説していきたいと思います。

そもそもプロジェクトとは、「新しい要素が含まれる独自の目標を未来に設定し、決められた期間内に達成させる一連の活動」のことを指します。(※複数の理論あり)そしてこの目標を達成するために計画から外れないよう、活動全体を統括していくことがプロジェクトマネジメントの役割です。

ちなみに余談ですが、企業にはプロジェクトの他に定常業務がありますが、プロジェクトのマネジメントを行うのがプロジェクトマネジメントであるのに対し、定常業務をマネジメントするのはビジネスプロセスマネジメントと言うそうです。

さて、先に挙げたプロジェクトの「失敗」とも疑われる状態に対して、PMO/PMの立場からどう対応するのが良いでしょうか。

① 理想通りの成果物ができない状態のこと?:要求通りの成果物を挙げてもらう

プロジェクトを立ち上げた際には成果物を定義します。またその成果物を得るために、いくつかの要素成果物を要求するでしょう。ですが、これらの要素成果物はあらゆる理由により、こちらが要求した通りのものが納品されないことが多くあります。

例えば戦略側からの要求に対して、開発側から予算、人材リソースが足りないから、期限までに間に合わないので要求の内容を変えてほしい、と要望があったとします。

一般的にはPMOとして、予算やリソースの変更がある旨、プロジェクトオーナーに確認し協議の上、必要であれば変更する、といったステップを踏むかと思います。

実際の現場でも、もちろんプロジェクトオーナーに予算やリソースの変更は確認を取り、許可をいただくことが必要です。ただ、開発側からの変更要求に対して都度このように対応しているかというと、そうではありません。

 

私自身、このような場面でPMOとして重要なことは、0か100ではなく、落としどころを見つける能力だと感じています。これが意外と難しく、プロジェクトの目標はもちろん、ステークホルダーや優先順位、気にしておくべきポイントなど様々な要素を理解し、全員が納得して前に進める落としどころを導き出す必要があります。

「Pros. & Cons.」や「Quality & Cost & Delivery」などの機械的な視点に加えて、「このプロジェクトだから必要な視点」を追加し、落としどころを可視化できるかどうかはとても重要で、PMOとしての重要な役割のひとつです。

「一般的に考えるとこの選択肢になるけど、いまいち決めきれないんだよな・・」という時に、“決めきるには何の情報・視点が必要か”を挙げられるかが、PMOとしての価値につながるのではないでしょうか。

② 想定外のトラブルが多く、予定通りに作業が進まない状態のこと?:スケジュールとリスクの管理

プロジェクトは決められた期間内に目標を達成すること、が定義になっている通り、スケジュールの管理は非常に重要です。しかしスケジュール通りにタスクが進まない、それも想定外のトラブルが起き、対応に困ってしまうといったことの方が多いかもしれません。

一般にはPMOとして各タスクの担当者から常にタスクの進捗状況の報告をしてもらい、遅延しているのであればどうしたら遅れを取り戻せるのか、影響のあるタスクについて協議する、あるいは当初想定したリスク管理表に従って対応をとるのではないかと思います。

実際の現場でもWBS等に従ってタスクの進捗管理はもちろん行っているものの、実はタスクの進捗度合いは各担当者によって基準が異なり、この微妙な違いが少しずつ積み重なり、全体のスケジュール遅延につながることが多いです。
また想定外のトラブルも、「あれ、これで終わり?このタスクは“ここ”までを明確にしてほしかったのに。」といったことが意外と多いです。

この場合、どういう状態が“完了(=100%)”なのかを明確に定義しておくことが重要です。
担当者レベルでは前工程、後工程をあまり理解せず、目の前のタスクだけに集中していることが多いです。その分PMO側が明確に完了条件を明示し、場合によってはある程度タスクの全体像を想像して、予め「もし○○なら?」という選択肢や取り組むきっかけなどを伝えておくと、こちらが求めている答えが得られることも多いです。

③ メンバー同士のコミュニケーション齟齬が多く、前に進まない状態のこと?:メンバー間コミュニケーションの管理

例えば「この業務は作業範囲外なのでできません。(または追加費用が必要です。)」といったスコープ、成果物の認識齟齬や、「企画が決めてくれないので開発が進みません。」といった要求/要件粒度に関する認識齟齬はよくあります。

文章で提示していても受け取り方は人それぞれで、皆自分の立場で判断してしまうケースが多いので、実は伝わっていないことも多いのです。

一般的な書籍でもPMOとしてメンバーやステークホルダーとのコミュニケーションに稼働時間の90%を費やすべきと記載されているほど、コミュニケーションは重要です。これは定義書だけでは伝わらないニュアンス、粒度の認識をそろえるという意味も含まれていると思います。

 

また、プロジェクトメンバーの関係性も発足時と数か月後では大きく異なり、それぞれの段階に合った対応が必要なのです。

実際の現場でも各メンバーとのコミュニケーションは特に意識している部分です。何度かコミュニケーション齟齬が発生した現場に居合わせて感じることは、最初のキックオフ、少なくともキックオフから数回分の会議が最も重要であるということです。

キックオフでどんな内容を共有するか、その内容をどこまで理解してもらうかは、PMOとして力を入れるべきポイントです。と言うと、どうしても具体的な成果物やその詳細を理解してもらい、要求通りのものを期日までに納品してもらわないと、と思ってしまいがちですが、そうではなく、PMOと同じプロジェクトの目標や課題感を共有するということが重要です。

そのためにどの内容まで伝えるのか、場合によっては特定のメンバーには個別に意図を伝える必要があるか、など粒度や範囲の見極めは熟考してみてください。

まとめ

今回は3つの観点で、PMOの役割や求められることを、実際の現場に即した形で書き留めてみました。
プロジェクト毎に少しずつPMOの対応範囲は異なり、むしろ常に同じことをしているわけではない、ということが面白いところでもあります。

一般的な“ベスト”と、その会社の“ベスト”は違うので、成果物の要求、プロジェクトの進め方、コミュニケーションの取り方など、全ての側面において、どのレベルの関わり方がその会社のPMOとしての“ベスト”か、は常に考えて取り組んでいます。

私もまだまだ勉強中ですが、これからも様々なプロジェクトを前に進めるために努力していきたいと思います。

記事を書いた人

今江 亜利沙