2023.05.30

AIの普及でビジネススキルはどうなるか?

ビジネスやITの世界で、今最も話題になっていることのひとつに「ChatGPT」があります。皆さんご存じのとおり、知りたいことを投げかけるとAIが答えてくれる、対話型の検索システムです。

仕事上ちょっと調べたいことでも、内容によってはそれなりの精度で応えてくれて、一からリサーチするよりも大幅なスピードアップが期待できます。

また、聞きたいことをまるっと聞いてしまうので、断片的な調査をするよりある程度まとまったものになり、複数のソースから情報を集めてきて繋ぎ合わせるというプロセスも省略できます。

調べ事の枠を超えて、商品企画のアイデア出しに用いる大手企業も出てくるなど、まさに思考そのものをサポートする存在になろうとしています。

ビジネスの世界に身をおいている立場としては、こういう便利なツールが出てくるたびに、相対的に自分の仕事が効率的になるところと、これまで行ってきたことが陳腐化する部分の両面を考えてしまいます。もしかすると自分が得意としていることを奪われてしまうのではないだろうか…と。

結局、これまでのIT活用の歴史はそういうことの繰り返しで、効率化の反面、「なくなる職種」をリストアップする機関が出てくるなど、危機をあおられることも多いです。

実際に人は考えない生き物になってきたのか?さらに能力低下をするのか?そういった疑問をこれまでのいくつかのイノベーションを振り返って、「リフレーミング」的に考えてみたいと思います。

まずはPC活用で何が変わったか?

思い返すと、私が最初に仕事でPCを使うようになったときは、自前での購入でした。そして、高度な使い方ができるかできないかで、人によって大きく業務の効率化の度合が違っていました。

徐々にそれぞれがオフィスのソフトを使いこなすようになり、ドキュメンテーションに伴い必要になる業務ががくっと減り、集計したりグラフを作ったり書類作りをお願いしていたアシスタントの仕事が激減しました。自分で、というか、パソコンがやってくれますから。

一方で、こういうアウトプットをしたい、こういう分析をしたい、という確かめたいことやそれをどうやって確かめるかを考えるスキルが高まったと思います。

今は誰もが用いる「仮説立案」というスキルです。この言葉が普通に用いられるようになったのはこの頃なのではないでしょうか。ある意味考える力は高まったと言えます。

ネットやSNSの登場で何ができなくなり何ができなくなったか?

次の大きな波はインターネットです。膨大な情報にアクセスして何かを調べることが可能になり、コミュニケーションのしかたも時空をこえ、誰もが世界に向けて発信・発言できるようになり、民主化が進みました。

コミュニケーションがEメールやネット上の投稿になり、キーボードで会話をするのが当たり前になりました。そして、心あたりのある人は多いと思いますが、何でも入力するようになることで、漢字を忘れるなどの能力低下が起こりました。

ただ、一方で、テキストでの会話が一般的になったことで、個々の言葉よりも大きい視点での、文章全体を組み立てる力や、どうやったらコミュニケーションがうまくいくかという「広い意味での言語能力」は明らかにあがったのではないでしょうか。

さらにSNSが主流になることで、今度は一対多、多対多、というコミュニケーションになり、評価しあう関係になったり、制限された文字数内や画像や動画など、やり方のバリエーションが増えました。

そうすると、何でも写真だけで伝えようとしたり、一言ずつの会話になったりして、今度は文章能力の低下が危惧されました。

しかし一方で、使えるものが増えることで、何をどう伝えるかのスキルがあがり、クリエーターのような「表現力」が高まりました。

ここまで見てきただけでも、あるイノベーションが起こったときに、スキル面でのPros & Consがあることが分かってきます。

そして、AIではどうなるか?

いよいよ人の能力や仕事を奪っていくのでは、という論調も多々あります。

例えば、一流大学の学長が、Chat GPTの普及に対して「みずから『文章を書く』ということに伴う重要な検証プロセスが欠けている」と批判的なコメントがなされたりしました。

また、ある研究では、「一部の専門職には50%以上のタスクで影響がある」という指摘もあり、かなり壊滅的な影響があるという論調も見受けられます。

たしかに冒頭に挙げたように、「企画」という仕事を機械に任せてしまうという、ある意味人でしかできなさそうな能力を放棄するような事態になりつつあります。

いずれ、AIが人の能力を超えてしまい、人が支配されてしまうときがくる、というのは、誰しもが考えてしまう想像しうる未来です。

ChatGPTを見ていると、いよいよだなと思う側面もありますが、とはいえ高まるスキルがあるようにも思います。

例えば、こうイメージしてみてください。「とっても優秀な何でも応えてくれるスタッフが自分のそばにいる」。これからの我々を取り巻く環境は、いわばそういう状態です。

最近の識者の肯定的な論調を見ると、「的確な指示をすれば驚くような能力を発揮する」という声も聞かれます。

そこで能力低下をしてしまうでしょうか? 確かに調べ事のスキルはやらなくなる分、下がると思います。ただ一方で、自分は何を依頼するのか?ということをきちんと考えないといけなくなり、それも聞き方ひとつで出来栄えも変わってくる。

企業でいうマネジメントをするポジション、それも結構上の方、になっていくこととよく似てないでしょうか?

優秀な人を使いこなす、それもひとつの重要スキルです。なんでもこたえてくれるとなると、何を聞くべきか、の適切性、「Whatを考える能力」があがるのだと思います。

さまざまな事象から「今何が必要か」の気づきを得ることは、まさに経営層の重要な仕事のひとつともいえます。

ということで、ポジティブに考えると、この先、みんながマネジメント層のスキルを有する時代、になっていくのではないでしょうか。そのレベルでのスキルの競争になるので、ある意味大変ですが、レベルの高いことをするようになるのはよいことです。

少し怖さすら感じる昨今のAIの進化ですが、ものは考えようなので、それによって自分たちのどの能力を高めるチャンスになるのか?というポジティブなことを考えてみるのもいいのではないでしょうか。

記事を書いた人

横山 彰吾