デザインにおけるAIの役割と顧客体験の革新

近年のデジタル時代において、企業の競争力は顧客体験の質に大きく依存しています。デザインはその中で不可欠な役割を果たし、AIの登場によりその役割は更に拡大しています。本ブログでは、前回のブログで記述した「デザインがビジネスに与える影響」に加え、今回はAIがデザインに与える影響と顧客体験の革新に焦点を当てます。

1.AIと業務の融合

何と言ってもChatGPTの登場により、AIはビジネスの中で重要な役割を担う存在となり、ビジネスとAIの距離が一般業務においてもグッと縮まりました。
そもそも我々が手軽に利用できるようになったこのAIは、深層学習に分類される生成系AIと呼ばれ、画像や文章、音声の生成などに使われています。これにより業務プロセスが大きく変わり、効果的なアイディアの出し方や実行が支援されています。
以前までは、競合調査や要件定義、ペルソナなどは案件チームで分担を決めて設定していき、そこから導き出されるクリエイティブ領域は外部委託となっていました。しかし、生成系AIを利用することで、クリエイティブ制作までのすべての業務を生成系AIに任せることができます。その後、人間がクリエイティブな部分を見極める必要はありますが、仕事の効率を引き上げ一気通貫で担うことができるようになりました。

2.顧客視点のデザイン思考とAI

クリエイティブ制作において顧客視点のデザインが重要なのは言うまでもなく、戦略フェーズで導き出した要素だけでクリエイティブを制作しても、顧客の全ての要望を満たすことができるとは限りません。その手助けとしてAIを活用することで、顧客の考えをより的確に把握し、満足度の高いクリエイティブを制作することが可能です。
顧客視点で考えるということは、デザインが魅力的であるだけでなく、顧客が使いやすく、満足度の高い体験を提供できるデザインである必要があります。そのためには、顧客が何を求めているのか、何を重視しているのか、どのようなニーズや問題を抱えているのかを理解することが重要です。
AIはこのような課題を解決するための強力なツールで、ここで指すAIとは機械学習に分類され、データからパターンを学習し、その結果を活用してタスクを自動化したり、意思決定を行ったりする技術です。機械学習アルゴリズムはデザインに関するデータを解析し、その結果を活用することで、デザイナーの作業を効率化し、データ駆動のアプローチを強化します。
顧客中心のデザイン思考と機械学習のAIとの組み合わせにより、顧客の期待に応えるクリエイティブな解決策を提供することが重要です。

3.AIのデメリット

AIの活用にはたくさんのメリットがあり、業務効率の向上に役に立っていますが、いくつかのデメリットも存在します。

・著作権の問題
AIによって生成されたデザインの著作権問題があります。従来の創作物と異なり、AIが生成したデザインの著作権は誰に帰属するのか、またどのような権利が存在するのかという点が不透明です。これは法的な問題や権利関係の確立において混乱を招く可能性があります。

・アルゴリズムが不透明
多くの場合、AIがどのように意思決定を行うのか、どのような要因が結果に影響を与えるのかを正確に理解することは困難です。このため、AIによって生成されたデザインや意思決定が不正確であったり、偏った結果を生み出したりするリスクがあります。

これらのデメリットを踏まえながらAIを適切に活用し、その利点を最大限に引き出しつつ、法的な問題やアルゴリズムの不透明性にも十分注意する必要があります。

4.AIによる顧客体験の最適化

顧客がサービスを利用する際に、サービスの質だけでなく、顧客との接点や提供される情報の分かりやすさも焦点になります。顧客体験の最適化により、顧客の忠誠心や満足度を高めることができるためです。
従来は、ABテストやサイト解析を定期的に行うことで、万人が満足する品質を維持することに注力していました。しかし、AIの活用により、膨大顧客データを分析し、その行動パターンや嗜好を把握し、個別にカスタマイズされた体験を提供することが可能になりました。
例えば、ウェブサイトのデザインを最適化する際には、以下のようなアプローチが考えられます。

・パーソナライズされたデザイン提供
機械学習のAIにより、顧客の好みや興味に合わせてウェブサイトのデザインをカスタマイズします。

・顧客の意見の自動解析によりデザイン調整
自然言語処理のAIにより、顧客のフィードバックや意見を解析し、デザインを調整します。

・チャットボットの実装
自然言語処理のAIを搭載したチャットボットを導入し、顧客とのコミュニケーションを円滑にします。
AIに任せることにより顧客の好みや興味に合わせて自動的に最適化するなどが考えられます。

5.デザインにおけるAIの役割のまとめ

以上より、AIの種類とデザインにおける役割は以下のように分類されます。

①機械学習:データからパターンを学習し、予測や分類を行う

(ア) ユーザーの嗜好や行動パターンの分析によるパーソナライズされたデザイン提案
(イ) データ駆動のアプローチに基づいたデザインの最適化

②深層学習:データを解析し特徴を抽出し、それを元に新しいデータを生成する

(ア) 画像認識技術を用いたデザイン要素の自動抽出や分類
(イ) 自動生成モデルを用いたデザインの自動生成やスタイル変換

③自然言語処理:テキストデータを解析し、意味を理解して処理する

(ア) ユーザーのフィードバックや意見の自動解析によるデザイン改善の提案
(イ) ユーザーとのコミュニケーションを円滑に行うためのチャットボットや自動応答システムの実装

AIはデザインの効率性や品質を向上させるだけでなく、顧客体験の向上やビジネス成果の拡大にも貢献しています。

結論

顧客中心のデザイン思考とAIの融合により、より効果的なデザイン戦略を提供することが期待できます。また、これまで内製化することのできなかった業務を一気通貫して提供することで、今までより効率的に顧客体験の革新とビジネスの成果を促進する一助となり得ます。
ただし、AIはあくまでも仕事をする上での補完ツールとして活用されるべきであり、人間の創造性や洞察力を置き換えるものではありません。AIが提供するデータや技術を適切に活用しつつ、人間らしいアプローチを保ち、顧客に価値ある体験を提供することが、このAI時代において生き残るために求められていくスキルの一つになっていくでしょう。
次回は、「AI時代に生き残る人材とは?」を題材にそのほか必要なスキルについて記述していきます。

記事を書いた人

木村 由衣