2024.06.26

顧客が機械(マシンカスタマー)の時代にわれわれが考えるべきことは何か?

昨今AIに関する話題を聞かない日はないぐらいになってきました。普段の生活の中でも、Apple SiriやAmazon AlexaなどのAIアシスタントに指示を出している方もいらっしゃるかもしれません。AI側が指示を受けて対応を行うようになってくれば、その指示を受けて自分たちの代わりにECサイトで購入を行うようになることは当然想定されてきます。
今回のコラムでは、私たちの代わりにそういったAIが購買プロセスを行うマシンカスタマーについて取り上げます。

1.マシンカスタマーとは

マシンカスタマーとは、AIや自動化技術を活用して商品やサービスを購入・契約する機械やソフトウェアエージェントのことです。これには人工知能であるAIや機械学習等が用いられています。
“マシンカスタマー”という用語は、米Gartner社のドン・シャイベンライフ氏が提唱した概念であり、マシンカスタマーは「支払いと引き換えにモノやサービスを自律的に交渉・購入できる、人間以外の経済主体」と定義付けられています。

マシンカスタマーの特長としては、自動化されており効率的に行動する点、24時間365日大量のデータをリアルタイムで分析し最適な選択をしてくれる点、人間のような些細なミスが発生せず精度が高い点が挙げられます。マシンカスタマーが増えることにより、人間顧客も企業も効率化やコスト削減など様々な恩恵を受けられるようになります。

Gartner社は2026年までにインバウンド・カスタマーサービスの接触件数の20%がマシンカスタマーになると予測しています。特定の業界では、既にマシンカスタマーが広く導入されていますが、2025年までには金融業界や小売業界での導入率がさらに増加し、チャットボット等を利用した顧客対応が主流になっていくと予測されています。各企業はマシンカスタマーの特徴を踏まえ、新たなビジネスモデルを考えたり、戦略的に対応したりしていくことが求められます。

2. マシンカスタマーの現在

マシンカスタマーは未来のお話ではなく、既に身近なところでも事例が登場してきています。特に、定期購入やIoTによる自動発注が代表的な例です。

上記の通り、現在のマシンカスタマーは、主に企業側が選定した自社製品や特定製品の購入を促進するための機能ということができます。既にある購買プロセスにおいて、AIの購入きっかけをあたえる、というパターンです。
ユーザからすると「気がついたらなくなっていた!」のような事態を避けることができ、購入の手間・負荷を減らすものですし、企業からすると、継続的な購買を促す(いわゆる囲い込み)ための戦略的なソリューションともいえるスキームを作っているわけです。

3.次世代のマシンカスタマーとは

今後、マシンカスタマー自らが情報収集を行い、複数の製品やサービスを比較検討して購入する第2世代のマシンカスタマーの登場が予想されています。現在は、そこまで高度な技術を持つマシンカスタマーは普及していませんが、その進展は確実視されています。

現時点でも、Amazon Alexaはユーザーの購買履歴や好みを学習し、自動的に製品を再注文する機能も備えています。Alexaは顧客の消費パターンを学習し、洗剤などの消耗品がなくなるタイミングを予測して再注文を提案し、顧客が注文を許可すると自動的に注文をします。また、同様の製品での価格比較を行い、最もコストパフォーマンスの良い商品の提案もしてくれます。

将来的には、
「今週は野菜中心にした晩ごはんの献立にしたいから、いくつかのお店を見てもらって、予算1000円で野菜を買い揃えて。
あと、その野菜を組み合わせた献立を7日分考えて。」
のような指示を出すと、連携しているサイトから情報を集め、食材を買い揃え、メニューを提案してくれるようになる時代が到来するでしょう。

上記のAlexaの例のように消耗品(BtoBであれば、汎用的な商材など)といった、ある程度の基準が満たされていればコストなどが判断基準になるような商材類に対しては、よりAIを活用したシステマティックなアプローチでの購入になっていくことが想定されます。

逆に、ストーリー性や生産者の顔を見せることで差別化を行なっていたり、ステップメールでの意識付けが必要だったりするような商材の場合は、マシンカスタマーには通用しません。
元から贅沢品として扱われており、自動購買しない類の商材は問題ないですが、「普段よりちょっと良いものを買ってみようか」ということで動機づけするタイプの商材は、マシンカスタマーで購入されるような商材と同じ土俵にあがってしまうと不利になってしまうことが予想されます。
そのため、「これは普段のシステマティックな買い物とは切り分けておくべきもの」という意識付け、またそれを前提とするAI側への指示出しを顧客側にしてもらう必要が出てくるでしょう。

4.マシンカスタマー時代でのマーケティングアプローチ

では、マシンカスタマーをターゲットした商材の場合は、どのようなアプローチが必要になってくるでしょうか?
マシンカスタマーは情報に即時アクセスし、その情報に基づいて判断を行います。そのため、マシンカスタマーに選んでもらうためには、企業はウェブ上の情報を充実させ透明性を確保することが必須です。価格、サービス内容、特典、自社製品の強みなどを明確に示すことで、マシンカスタマーが正確な情報を得られるようにすることが求められます。
また、マシンカスタマーは表面的なページ部分だけを見ているわけではなく、アクセスしてくるページにおける情報構造を解析するはずです。そうなると、マシン側に理解されやすいようなデータ構造の整理が求められてくることが予想されます。内容や構造だけでなく、各項目を指し示す命名規則も整理され、解釈しやすいもののほうが認識されやすい、といったことが出てくるかもしれません。
そうなると、以前からデータの構造化は重要でしたが、今後は現状におけるSEO対策と同じようにデータ構造化がより重要視されるようになることでしょう。

このようなマーケティングアプローチのお話がある一方で、私たちが注意しておくべき点もあります。
Flexeraの2023年の「State of the Cloud」レポートによると、企業の79%が顧客データを保護するための適切なセキュリティ対策を講じていないと報告されています。
マシンカスタマー側・受け付ける側双方において、顧客データを始めとする各種情報が適切に保護されているか(例えば、AI側が複数のサイトを閲覧・比較する際に不適切に個人情報が引き渡されていないかなど)といった情報管理については、これまでの購買プロセスと異なってくる以上、より注意した取り扱いが必要となります。
また、マシンカスタマーAIの購買判断が適切だったか、どのような判断のもとに決定がなされたのかが、現状のAIの仕組みからすると責任の所在が不明確なものとなります。そのため、それについてどのように企業・顧客とで合意を経ていくかなど、また今までと違う次元での対策が求められてくるでしょう。

このように今までとは違う観点での考慮点・検討事項が出てくるのは間違いありません。今後は、今まで以上に「情報の管理」に対して感度を高めておく必要がありますし、そこを対応できるかどうかが信頼できる人・企業としての判断基準になっていくのかもしれません。

記事を書いた人

髙島 有紗