Marketing Automation(MA)グローバル導入で注意すべき点 ~CRM/SFAとの違い~

CRM/SFAはツールとしての歴史が比較的長いということもあり、グローバルで事業を行う日系企業がCRM/SFAを全世界で展開するケースも多いですが、MA利用が日系企業にも浸透していく中で、CRM/SFAと同様にMAもグローバルで展開していくケースが増えてきています。

MA自体、導入する上での検討ポイントは少なくありませんが、グローバルで複数国に展開していくとなると、検討すべきことはさらに増えます。MAのグローバル導入を成功させるためには、それらについて検討し、適切な判断を下していく必要があり、その際に参考になりうる観点の一つが「CRM/SFAとMAで行う業務の違い」です。

「CRM/SFAとMAで行う業務の違い」とは一体どのようなものでしょうか?

「営業」と「マーケティング」と言ってしまえば簡単ですが、むしろその「業務特性」で見る必要があります。

どちらも顧客に関する業務を扱うという点では同じですが、CRM/SFAが顧客情報の蓄積・見える化や営業活動支援を主な目的としているのに対して、MAは顧客へのアプローチそのものも含まれるという点で異なっています。いわばデジタルで営業の代わりの活動をするといえます。

以下ではこの「違い」が、グローバル展開プロジェクトを進めていく上での判断にどう影響するか、これまでの実際のCRM/SFAやMA展開プロジェクトでの経験を踏まえつつ、簡単に見てみます。

 

ライセンスは各国個別で保有すべきか?グローバル全体で保有すべきか?

CRM/SFAの場合は、各国の市場および各拠点の能力の違いがライセンス体系に与える影響が小さくありません。

各国の市場や、チャネル構造、組織の能力等が大きく違う場合は、顧客情報で見たいものや見方が異なったり、営業活動管理の具体的なやり方などが変わってきたりなど、拠点間でバラツキが生まれます。

例えば筆者が担当した製造業の会社でも、ある新興国では、まだ市場参入したばかりで営業リソースを増やして活動量の管理だけを行うくらいでしたが、一方で欧米では市場が成熟した代理店販売であり、分析が重視され膨大なカスタマイズをしていました。

このようなケースでグローバル全体でのライセンス保有とすると、各国の自由度を制限してしまい拠点にとっては使いづらいものになってしまう可能性が高いため、業務を優先するのなら、各国でライセンス保有するのが適していると言えるでしょう。

ただ、あまりに対象国が多い場合に各国でライセンス保有すると、コントロールが効かせづらくなり、ITガバナンスや運用効率性の観点から望ましくありません。エリア単位でくくるなど、別途検討は必要になります。

 

一方、MAの場合は、メール配信などオートメーションで直接顧客に接触します。ここで守りの観点が必要になります。配信ミスなどが起こっては大変です。そうならないようルールを策定しそれを守らせる、つまりガバナンスを効かせるというのが重要になってきますので、本社がコントロールやモニタリングしやすいグローバル全体でのライセンス保有の方が適しているケースが多いです。

また、マーケティング戦略上、グローバルでのブランドイメージ統一もとても重要です。各国でまったく違うメッセージが伝わったり、古いロゴが使われたりなどの問題は避けたいです。そのような観点ではアセットを各国間で共有しやすいグローバル全体でのライセンス保有の方が適していると言えるでしょう。

ただもちろん、市場が違う各国で同じことをするわけではないので、どのツールかにもよりますが、パーテーションを分けるなど、同じものが混ざらないようにするというミス防止の観点も極めて重要です。

 

システムをどのようにグローバル展開していくか?

CRM/SFAの場合、上で述べたように、各国間でのバラツキが存在するため、各国要件のシステムへの反映は、規模の大小はあれ、必要になってきます。

その際、国ごとに要望を元に一からシステムを構築するのは効率が悪いので、本社で標準のテンプレートを準備して、それを元にフィット&ギャップし、各国向けにカスタマイズしていく進め方が一般的と言えるでしょう。

MAの場合は、顧客データ連携のための開発等が必要となることはありますが、ライセンスさえあれば比較的早くツール活用ができ、むしろ運用のウェイトが高いものなので、本社では「最低限の制限」をかけた上で、各拠点にある程度自由に使わせるという導入スタイルが多いです。

「最低限の制限」と言いましたが、これが重要かつ注意が必要になるポイントです。

MAでライセンスをグローバル全体で保有する場合、各国の顧客データがツール上に集約されるのに加え、ツール利用者が各国をまたがることになります。
ライセンスのところでも述べましたが、誤配信などのミス発生のリスクを回避するためには、どの拠点の利用者に、どのデータを見せるか、どのアセット/機能を使わせるか、を適切にコントロールするのが非常に重要です。

ただ、リスク回避を目的に闇雲に制限だけをかけていくと、各国がMAを活用して自由にマーケティング活動を行うことが難しくなるため、考えられるリスクとそれぞれの国の自由度のバランスを見ながら、どこまで制限をかけるか見極めるのがポイントと言えるでしょう。

 

 

本社と各国拠点の機能分担

日系グローバル企業の場合、CRM/SFA、MAともに、それらを利用した各国の細かい業務にまで本社が口を出すケースは稀です。

各国がCRM/SFA、MAを利用して実際の営業活動やマーケティング活動を行っていくのに対して、本社としてはKPIなど必要なデータさえ見られればよい(=結果重視、各拠点の細かい状況までは把握不要)ということが多く、そのためのデータ収集やモニタリングが、各国での利用開始後の本社の主な役割になっていきます。

ただ、MAに関してはこれまで見てきたように、本社がリスク回避のための統制をとる必要があります。不適切な利用がないか定期的にモニタリングしたり、不適切な利用がある場合にそれを回避するためにツール設定を調整したり、統制を効かせるための役割が求められます。

筆者の経験したある製造業の会社では、法的な観点で、国をまたいだ不適切な顧客データの参照は絶対に許されないため、本社側でデータ参照権限の設定状況を定期的にチェックする仕組みと体制を整備した上で運用を進めています。

 

 

 

このように、CRM/SFAとMAはともに顧客に関する業務を対象とするものとは言え、MAが顧客へのアプローチ自体もその対象とするため、CRM/SFAとMAでは展開時に注意すべき点が異なり、ガバナンスの観点ではMAグローバル展開の方がより慎重な検討が必要になります。

今回はMAやCRM/SFAそれぞれ単独でのグローバル導入事例に基づき、検討すべき内容について見てきましたが、そもそもMA とCRM/SFAは、連携することでさらに成果につながるものです。
そして、MAとCRM/SFAを連携させてグローバルで展開していくとなると、より多くの点について検討していく必要があります。(例えば、マーケティング部門から営業部門への見込客の引き渡し基準も各国によってバラバラな状況で、見込客や顧客をグローバル全体でどう管理していくか、等)

MA+CRM/SFAのグローバル展開というケースも今後増えていくことが想定される中で、どのように課題を切り出し、それをいかに検討・対処していくかは、今後我々にとっても課題と言えます。

記事を書いた人

野中 翔