【DXコラム1話目】DX推進の課題にどう向き合うか?

DXを進めるにあたり、特に立ち上げの段階においては様々なシーンでご担当者様に戸惑いがあります。AI/IoTの一般化や、データ活用ニーズの拡大、インタラクティブなツールの充実などを受け、社会全体で急激にDXに対する意識が高まり、これまでDXに関心が薄かった企業も積極的に取り組むようになりました。

そのような流れに中で、「突然自社のDX推進プロジェクトの立ち上げを任せられた」と戸惑うご担当者様をお見かけする機会も以前より多くなりました。そこで、特に立ち上げ段階をご担当される方々向けに、弊社がDX推進のご支援をさせて頂く中で実際にお見かけした戸惑いのケースと、それぞれに対する打ち手の考え方について、シリーズでご紹介をさせて頂きます。

今回は初回として、実際にどのような戸惑いがあるのか、現場のリアルをお伝えいたします。

ケース1.「デキる」社員を集めたのに...

1つ目は人材に関する戸惑いです。
A社は、昨今のDX推進の流れに乗り、全社的に取り組んでいくことを決め、各部署から精鋭を集めた推進チームを結成しました。「デキる」といわれている社員を集めた精鋭揃いのチームであるため問題なく進んでいくと考えられていましたが、1年間期待する進捗が無いまま停滞している状況でした。

状況をヒアリングすると、このような回答が返ってきました。
A社「社内で評判の良い優秀な人材を集めたのですが、進捗が芳しくないです」
弊社「どのようなスキルを持った社員を集めましたか」
A社「普段の仕事で特に動きが良く、ITリテラシが高い人材を集めました」

どのあたりに理想とのギャップがあるかお分かりでしょうか。

着眼すべき点は、求められるスキルと社員のスキルの一致度合いです。DX推進においての「デキる」人材の定義は既存事業における「デキる」とは異なる場合が多く、DX推進に必要な機能をきちんと定義し、それに対応したスキルセットを持ち合わせた人材リソースを調達する必要があります。「精鋭を集めたのに進まない」という感覚に陥っていらっしゃる状況であると考えられます。

一般社団法人日本能率協会の調査でも人材関係の戸惑いが上位を占めており、特に「DX推進に関わる人材が不足している」が88.5%を占めています。どの企業にも既存事業をリードするエースのような存在はいらっしゃいますが、DX推進にとっての適材ではなく、人材不足であると認識されている経営者が多いと考えられます。

ケース2.うちの部門は自分たちでやるからいいですよ

2つ目は関係各所の巻き込みに関する戸惑いです。

B社では、マーケティングにおけるリード獲得にDXを活用する狙いで、新たにマーケティングDXに特化したチームを立ちあげて活動を開始しました。
このチームの初期の活動として、関係各所へのヒアリングから現状の課題把握を行い、DXを推進することで課題解決が見込めるという趣旨の説明を行い、関係各所への協力を依頼しました。

結果は玉砕。全く取り合ってもらえず。

一見、このチームのアプローチに問題は無いように思われますが、関係各所の「それ、わざわざやるほどのこと?」「それ、この間こちらが話をしたことですよね?」という問いに答えられるものではなく、DXに対する関係各所の期待するゴールと推進チームの想定ゴールが乖離していた点にコミュニケーションが上手くいかなかった原因があると考えられます。

これは初期のヒアリング時点で、関係各所の話を聞きすぎて、現状の課題に固執し過ぎたゴールしか描けず関係各所が思い描く期待値を超えることが無く、導入コストの方が高く感じられてしまう事で思ったように話が進まなくなりそうな話になりました。

一般的に上げられる課題と実際発生している課題から、適切なゴールとそれまでの過程を考えていく必要があり、当事者が問題なく進んでいると思っていてもうまく進まないのにはこういった原因が考えられます。

一般社団法人日本能率協会の調査では、「社内関係部署の連携が十分にできていない」悩みを抱えている回答者が過半数であり、社内の期待にどう応えて巻き込むかという点において困難を抱える方が多い状況であると見受けられます。

ケース3.号令のあと、いつまで経っても始まらないのだけれど・・・

3つ目は推進面での戸惑いです。

C社においても、リード獲得にデジタルマーケティングプラットフォームを活用すべく、推進チームを作り活動を開始していました。社内にDXノウハウを持つ人材がいたため、中心となって全社大での体制案やロードマップ等を作成し、経営陣へ実行伺いを立てる段階までスムーズに進みました。

しかしながら、経営陣の承認は得られず、しばらく停滞することとなりました。経営陣の懸念は、目に見えた効果がすぐに表れないことから、プロジェクトの中止・撤退の判断が難しく、そこまでのリスクを負ってまで社内体制の大幅な変更に対し相応の効果が出るのか、という点です。

本ケースにおいても経営陣と現場の観点の乖離という点が読み取れますが、より大きな抵抗感の要因として、社内体制を初めから大幅に変更することがあったのではないかと考えることが出来ます。

その後、このケースでは、体制を見直し、ごく限られた一部の部署とのみ連携し小規模な体制を構築してトライアルとして始める「スモールスタート」の概念を念頭に置いて計画を立てなおしました。

このあと、実際にトライアルで得られた効果を確認したうえで徐々に適用範囲を広げていくとのことです。初めから大規模リソースを投入せずに済むため経営陣の抵抗も比較的少なく、実際の効果を確認しながら進められる出来るため、クイックかつスムーズにプロジェクトを進められました。ただ、本当のゴールにたどり着けるか?というもやもやを抱えたままなのも事実です・・・

独立行政法人情報処理推進機構の調査では、「ビジネスや組織の変革に対する社内の抵抗感が強い」という悩みが調査項目で2番目に多く、約4割の回答者が同様の悩みを抱えている結果が出ています。

ケース4.このツールとあのツール、使い分けを誰か説明して・・・

4つ目はツール・ソリューションの運用に関する戸惑いです。

D社では、経営陣が主導し膨大なデータの解析を行うツールの導入を数年前に行いました。そこから数年をかけて、Webマーケティングの拡大に伴い様々なツールの導入を行い取得できるデータを増やしていきました。

しかし、どんどんコストが高くなってしまい経営層からツールの見直しを命じられ、導入しているツールを振り返ったところ、他ツールと出来ることが被っていた。取得をしているが、そのデータを活用しきれていなかった。などの課題が浮き彫りになりました。

導入時のタイミングで、どのようなデータの取得を目標にしているか、業務のどの部分を補助改善するためのツール・ソリューションなのか、将来的にはどのような運用をするのか、定義・浸透の不十分さが無駄なツールの導入をまねいた原因と考えられます。

取得したいデータをきちんと取れるツールを正確に選択するのは難しく、今回のような失敗を招いた要因だと考えられます。実際、SaaSは簡単に始められる反面、真にそのツールができる業務を把握し、最適な位置づけで使用できているかを確認することを怠りがちです。

また、取得できるデータの量や多様性が増している中で、そのデータをすべて活用していくのは困難になっています。現在では多くのツールを使いこなすBig Opsという言葉も出てきていますが、いくらデータが取得できていたとしても、そのデータが活用できていなければ宝の持ち腐れになってしまいます。

目的に合わせたデータの取得とその取得手段を検討し、自社に合ったツールを導入していく事が適切に業務を進める上で必要になってきます。

東京商工会議所の調査では、従業員がデータを使いこなせないという悩みを約30%の回答者が抱えており、導入した後の運用、つまり実務への浸透面において悩みは尽きない状況であることが窺えます。

いかがでしょうか。
今回は合計4つのケースを紹介させて頂きました。どのケースも身近に起こりうる内容ですので、共感頂ける部分が少なからずあったのではないでしょうか。
次回以降、各ケースに対してどのように考え、手を打つのか、私どもの現場経験をもとに、詳しくご紹介いたします。

【参考】

  1. 一般社団法人日本能率協会:『日本企業の経営課題 2022』 調査結果速報 【第 1 弾】
    https://jma-news.com/wp-content/uploads/2022/11/221104_keieikadai_DX_release_.pdf

  2. 一般社団法人日本能率協会:『日本企業の経営課題 2021』 調査結果速報 【第3弾】
    https://jma-news.com/wp-content/uploads/2021/09/20210922keieikadai_No3DX_0921.pdf

  3. 独立行政法人中小企業基盤整備機構:(最終版)中小企業のDX推進に関する調査(全体版)
    https://www.smrj.go.jp/research_case/research/questionnaire/favgos000000k9pc-att/DXQuestionnaireZentai_202205_1.pdf

  4. 独立行政法人情報処理推進機構:デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査
    https://www.ipa.go.jp/jinzai/chousa/qv6pgp000000buyg-att/000073700.pdf

  5. 東京商工会議所
    https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1200374

記事を書いた人

星川翔太